BRCOKHAMPTON

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『ROADRUNNER: NEW LIGHT, NEW MACHINE』-BROCKHAMPTON | この時代において、ポップであることの証明

April 24, 2021

自らを<ボーイズバンド>と名乗るヒップホップグループ BROCKHAMPTON の2年ぶりのニューアルバム『ROADRUNNNER:NEW LIGHT, NEW MACHINE』は、2年前とだいぶ景色が変わってしまった世界と同様に、彼ら個人にとっても、この2年間が苦難と思索の期間であったことが窺える作品だ。勿論、同性愛者である中心的メンバー・ケヴィン・アブストラクトにとって、これまでの社会も決して生きやすいものではなかっただろう。または、長きにわたりアフリカ系アメリカ人を苦しめ、この時代に最悪の形で露呈してしまった人種レイシズムとバイオレンス、そしてCOVID19と拡大する若者のメンタルヘルスの問題…。

この苦難の世界を経て、BROCKHAMPTON の新作が前作『GINGER』に輪をかけて、より内省的でパーソナルな作品になっていたこと。またはこの騒々しく残酷な社会の中で、何とか一筋の光(THE LIGHT)を導き出そうとするような、そんなデリケートなアルバムであったことは我々に、希望の見えない2021年と彼らの現実を突きつける。

しかし同時に、彼らが今作で提示する表層的な音楽には心の底から体がノッたのも事実だ。彼らが本当の意味で<ボーイズバンド>であるかはともかく、少なくとも「ポップ」であると言うことはできるだろう。シリアスな世の中で今作のどこにそれを見出せそうか。 


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「STAR」の乱立される固有名詞をはじめとした大胆さと勢いに飲み込まれつつ、確かな若者の叫びと軽さの同居の中にポップを見た『SATURATION』の1作目から、前作『GINGER』まで、彼らが、精神的な不安や苦しみを歌っていたことは事実だろう。

彼らの作品でメロウなループに入るとき、不安はいつだってゆっくりと、確かに我々に、その存在を忘れさせるかとでも言うようにすり寄ってくる。ノリのよく、楽しい楽しいBROCKHAMPTONの楽曲群と真剣に向き合ったときに改めて確認できるのはそういった、躁鬱的な感覚である。

“ Trouble keep following me
Trouble keep following me
The shadow keep following me
The shadow been following me, oh-wee, oh-wee, oh-wee ” – 2PAC

自分たちは確かにそんな彼らの音楽で踊っていた。そのことを頭の片隅に入れて、新作を聞いてみるとどうだろうか。

一曲目、ダニー・ブラウンが参加している「BUZZCUT」でのバイブスは、いかにもオーセンティックなラップパフォーマンスといえるし、三曲目「COUNT ON ME」では曲の終盤で大胆なウータンクラン -「CREAM」のサンプリングが聞こえる。この序盤で確認できるのは、<ボーイズバンド>と言っても、彼らが生粋のヒップホップアクターであることに他ならない。一方で「THE LIGHT」の壮絶なギターサウンド、ゴスペルの「DEAR ROAD」など、多彩なサウンドやジャンルが同居しているのは、彼らの今までの作品を聴いていた者であればある程度の予測がついていたとともに、嬉しくなるあたりでもあるだろう。

あるいは、今アルバム中で最もキャッチ―と思われる「COUNT ON ME」を聞いて、メロウで軽快なコーラスのバックに、ショーン・メンデスという優れた声を置く贅沢さに呆れてみてもいい。または「WHEN I BALL」の体を揺らしてしまうような風通しのいいメロディはどうだろう。どうやら今回も、雑多で大胆、そして甘くてノリのいいアルバムの空気感は健在のようだ。この溢れるような多要素の詰め込み感ですら、ある意味ポップと形容できるかもしれない。

一方で歌詞やモチーフに目を向けると、序盤は、正に2020年のBLM運動以降であらずとも、アメリカ社会のアフリカ系に対するレイシズムと抑圧を連想させるようなラインが散見される。

“ A platinum record not gon’ keep my Black ass out of jail ” – BUZZCUT 

“ Go ahead, throw a chain on, nigga
Tell them boys where you came from, nigga
Tell’em boys why I stay up late
Tryna say tryna say tryna say somethin’, nugga, tryna say ” – CHAIN ON 

このことからも今作は「社会」の存在を作品の中に感じさせる。現実の世界とラディカルに接続する中で、楽曲のテーマはメンバーの個人的な悲劇にも及ぶ。

中でも今作を語るうえで避けては通れないのは、BROCKHAMPTON のメンバー Joba の父親の自殺が今作で大きく取り上げられていることだ。それはとりわけ「THE LIGHT」と、救いのようなクライマックス「DEAR ROAD」を経た「THE LIGHT PT Ⅱ」にて具体的に言及される。

“ I give, my mom so,-mess
In the same house my dad died in, all alone
Tryin’ not to be paranoid, tryn’ not-a they’re calling it
Cause every headline is a reminder that the world’s fucked
So I’m just tryin’ to see the light
In between the clouds
Still love that sunshine ” – THE LIGHT 

人生において身近で大切な人を失うという出来事は彼を精神的に苦しめたが、一方で、i-Dでのヴァージル・アブローとのインタビューで、Joba自らがこのような歌詞を書くことに対し「誰かを助けるため」とも言及している。「DEAR ROAD」が、ゴスペル調の楽曲であるように、今作は今まで以上に、自分たち、そして聴いている人々への「祈り」「救済」というテーマが濃厚だ。「THE LIGHT PT Ⅱ」にはこのような歌詞が込められている。

” The light is worth the wait
I promise, wait
Why did you do it?
The light is worth the wait
I promise, wait
Screaming please don’t do it
The light is worth the wait
I promise, wait
Why did you do it?
The light is worth the wait
I promise, wait
Screaming please don’t do it ” – THE LIGHT PT. Ⅱ

「その光には待つ価値がある」と誰に向かって言っているのだろう。それは早急に人生を終わらせてしまった自身の父親に対してかもしれないし、または聴いている我々に対してかもしれない。そう、自分たちだけではない、このアルバムはきっと誰かの救いになろうとしている。

一方で、チャーリー・ウィルソンとの「I’LL TAKE YOU ON」からメロウで和やかな展開を見せたかと思えば、我々を現実に引き戻すように「DON’T SHOOT UP THE PARTY」の騒々しさが襲う。人種差別、同性愛嫌悪という社会的なイシューを散りばめた同曲を経て「DEAR ROAD」の祈りに繋がるあたりは、個人の悲劇の根底に居座る社会の存在を意識することで、個人と社会の関係性を浮き立たせようとしているようだ。さらに言うならば、その後の祈りによって、彼らがこの世界の不幸を音楽で引き受けようとしている気さえもさせる。

「ポップスターはその時代の不幸、そして快楽をも背負い、表現に還元してきた存在である」という考え方に対して「それは間違いである」と我々は言えないはずだ。それはかつてのビートルズやデヴィッド・ボウイがそうだったように。カニエ・ウエストやチャンス・ザ・ラッパーが明るい曲調に対して、決して残酷な現実から目を背けることはなかったように。彼らの音楽に魅了されてきた多くの人々にとっては、BROCKHAMPTON にも音楽的快楽を見出すことなど容易いだろう。確かにそんな彼らの音楽に救われたという人がいるとすれば、BROCKHAMPTONは自身の辛い経験を作品に取り入れたとしても、そこにこそ希望があると考えたのではないだろうか。

このアルバムはきっと誰かの救いになろうとしている。それは、偏見や差別にまみれた社会で生きづらさを感じているあなたのかもしれないし、不安や孤独な日々に押しつぶされそうになっているあなたのかもしれない。そして私たちは、そんなハードな現実の上でも音につられ、体を揺らし、踊ってしまう。彼らがやろうとしていることを「ポップ」と言わずして何と言おうか。

Credit

Writer : 市川タツキ

幼い頃から、映画をはじめとする映像作品に関心を深めながら、高校時代に、音楽全般にも興味を持ち始め、特にヒップホップ音楽全般を聞くようになる。現在都内の大学に通いつつ、映画全般、ヒップホップカルチャー全般やブラックミュージックを熱心に追い続けている。(IG : @tatsuki_99 )(TW : @tatsuki_m99

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