苦痛を恐れず詩に変える BERWYN のバックグラウンドを知る

June 22, 2022

歌とラップをシームレスに混ぜ、苦痛を歌い上げる BERWYNは明らかに恐れていない。トリニダード・トバゴをルーツに持ち、9歳のときにイースト・ロンドンに移り住んだアーティストは「俺はウィードにアディクトしてる / ウィードを吸うのはストレスだらけの現実を忘れさせてくれるから」と、逃げ道を模索しながら、目の前に現れる困難について語り続けている。

彼は移民制度、その資格に苛まれ、大学進学の出願、就職先への履歴書を取り下げられた。家を失い、車の中で寝泊まりした時期もあったそう。彼はそんな不安定な過去の日々を「Shitty life – クソな人生」と表現するが、決して卑屈にはなっておらず、むしろ、その体験を率直に、堂々と私たちへ届けようとしている。デビュー・プロジェクト「DEMOTAPE/VEGA」の制作には、作品を作り上げる以上の意味と、意気込みが込められていた。その作品が認められるか、そうでないか、という分岐には、彼のロンドンでの生活そのものがかかっていたからだ。

聞ききれないほどの膨大な作品の内で特に BERWYNの作品が心に響くのは、自分と繋がる感覚があるからだと思う。それが歌声によるものなのか、演奏によるものなのかの特定はできないが、彼の内から溢れる誠実さが、私たちと音楽を繋げてくれているはずだ。長く聴かれ続けるであろう作品を聴いた レーベルXLのボス Richard Russell が彼に夢中になり、自身のプロジェクト「Everything Is Recorded」に招いたのは、同じことを感じたからかもしれない。こうした業界の大物からのフックアップもあり、彼はイギリスでの居住権と金銭的な安定を掴み取った。

その後にリリースされた彼の最新作「TAPE2/FOMALHAUT」でも、彼は主張の姿勢を変えていない。それどころか「孤独」をテーマにした新作は、メロディにおいても、詩においても、より感情的になっている。「I’D RATHER DIE THAN BE DEPORTED」では「生まれる前に死ぬべきだった、故郷に帰されるくらいなら死んだほうがマシだ」と移民としての苦悩をラップで語り、「SNAKES ON MY NOKIA」では、身の回りの人々との関係性についてメロディアスに歌い上げている。ただ、どの曲でも彼は決して屈してはいない。現在、彼の目標は「故郷のトリニダード・トバゴに還元すること」「自分のサウンドを愛してくれる人のために歌うこと」。堂々と使命感を持って歌い続ける彼に惹かれないわけがあるだろうか。

Credit

Text : Shinya Yamazaki(@snlut

Folllow us on Instagram (@honormag)
on Twitter (@honor_mag)

READ NEXT

DISCOVERY