Frank Ocean と瞑想の勧め | blonded radio で放送された3つの対話を聞く

July 15, 2022

blonded radio のリスナーなら直近のエピソードにおける変化に気づいていると思う。Frank、Vegyn、Roof Access による選曲と、ときどき訪れる新曲の披露で構成されたエピソードは陰を潜めて、EP11からはFrank 本人による、様々な世界の知識人とのインタビュー・セッションが中心に。この記事では、EP11、12、13に登場した3名について、Frank との間にどのような会話がなされたのか聞いてみよう。


(新曲を期待してblonded radioを聞いたのに、見知らぬ男のドラッグ話だったとき)

EP11 with Wim Hof “Ice Man”

blonded radio 初のインタビュー・セッションに登場したのは Wim Hof、通称「アイス・マン」。氷水への2時間の入水、上裸でのキリマンジャロ登頂…。彼独自の呼吸法で精神、神経、そして免疫能力をコントロールする、といったメソッドを持つオランダ人。彼が厳しい環境に身を置くのは、それが健康な身体と心を手に入れるために必要な刺激だと考えているから。

Wim Hof「私たちは細胞でできている。細胞には外側と内側があるね。それが外の世界と、自分の体を隔てている。細胞が外の世界から自分を守るシールドになっているんだ。もしその”シールド”が上手く機能していないと、外から全てのものを細胞に取り込んでしまうんだ、つまり、ストレス(負荷)をね。酸化や炎症を引き起こす細菌や、生物学的なストレス、そして精神的なストレス。全てが細胞が引き寄せるストレスなんだ。それが我々の身体に侵入している。我々のシールドはいま危険に晒されている。きっと私たちのライフスタイルが快適すぎるからだろう。刺激がなく、あまりに快適すぎるんだ。自然に晒されることもなく、家や車、服に守られている。はるか昔の時代には我々は自然に晒されていた。つまり、私たちの肉体は刺激に耐え、環境によるストレスを中和することによって形成されてきたんだ。」

彼は極度に冷たい環境に身を置くことで、細胞に刺激を与えていて、その刺激は身体、そして精神のどちらにも良い影響を与える、とインタビューの冒頭で Frank に説明する。Frank がどのような理由で彼に声をかけたかは明白ではないが、2人のある共通点が彼らを引き寄せたことは間違いないだろう。

Wim Hof「1995年、私は妻を自殺で亡くした。彼女は8階から飛び降りる直前、私たちの4人の子供にキスをして別れを告げた。私はそのとき、金を稼ぐためにガイドとして山にいた。彼女は家族と一緒だったよ。4人の子どもと、悲しみだけが残されたようだった。理不尽だと思ったし、その事実を見つめることができなかった。それが現実だということを受け止められなかった。そのとき、私にとって心が休まる瞬間は、水風呂に浸かって思考が止まっているときだけだった。冷たい水と深い呼吸だね。そして、その2つは我々の脳を深い意識の世界に連れて行ってくれるんだ。そこには感情は存在しない。君は「喪失」の意味について尋ねてきたね。もちろん何かを失って悲しむことには大きな意味があると思う。ただ、誰もが彼女に迫る陰を止められなかったように、起きたことに対して私たちは自分の無力さを感じてしまうだろう。だから、そのとき私に出来たのは、思考を止め、冷たい水に入ることだった。考えるのではなく、ただ生きるということに集中した。「ただそこにいる」ということは悲しみと思考のループから、私に休息を与えてくれたんだ。その時間が私を癒してくれた。そのループは「生の感覚」を奪うものだったから。考えることで、そのループを打ち破ろうとしたけど、自分ではできなかった。でも冷たい水がそのループを破ってくれたんだ。」

Frank は弟 Ryan を2020年8月に自動車事故で亡くしているが、そのことがこの対話を生んだことは、Frankによる「喪失の意味」という質問にも表れている。どうやら、このインタビュー・セッションはFrankの個人的な体験と結びついたもののようだ。


(EP11では楽曲も放送された)

EP12 “Lucy in the Sky With Diamonds” with Dr. James Fadiman

The Beatles の楽曲「Lucy in the Sky With Diamonds」をタイトルに引用したエピソードには、サイケデリックス(LSDなどの幻覚剤)の専門家 James Fadiman 博士が登場。ラジオのアートワークもLSDのカラフルなペーパー仕様だ。

「マイクロドージングは毎日やるものじゃない。オススメは初めにやった日から2日置いて、もう一度試す方法。」

インタビューの冒頭、Fadiman博士はマイクロドージング(幻覚剤の微量投与)の効用と、その服用の勧めを語る。マイクロドージング、つまりトリップするほどの量ではなく「微量の幻覚剤」を適切に服用することが、精神的な障害や、創造性の向上に繋がるという。Frank は彼にこう尋ねる。「トリップについてはどう考えてる?何が起きていると思う?」Fadiman博士は、トリップの経験を海に例えて答えた。「そこでの経験は自分自身の経験を超えたものだろう。海で例えよう。流れている波を人だと思ってほしい。だが少しもしない間に、波は海という全体の一部に還るよね。ハイなトリップをするということは、自分自身が海の一部であることを思い出す、ということ。」

Frankはマイクロドージングの効果とトリップに対する専門家の見解を聞いたあと、自身のマリブでの体験と幻覚剤に対する印象を語る。「この夏、マリブで仕事をしていたんだ。マリブにはコヨーテがたくさん暮らしているみたいでね。真夜中にスタジオから出たら、うさぎの群れが走り回っていた。昔やっていたゲームを思い出したよ。自分が魔法使いか何かで、それぞれに役割が与えられていて、フィールドを走って、アイテムを拾ってポーチに入れるんだ。サイケデリックを含む、新たな体験をもたらす幻覚剤は、その世界の道中に現れる”アイテム”のように思えた。」

Fadiman博士 による統計を踏まえた幻覚剤の安全と効果の説明は続く。「サイケデリックスはメンタルにおいて非常に強力な影響を及ぼすが、興味深いほどに安全なドラッグだ。」「医療目的での利用に効果があることは明らかだ。イランやアフガニスタンの兵士たちの自殺を妨げることができている事実があり、政府はそれに反対する理由がないだろう。世界では鬱の患者が増えている。だが、抗うつ剤は気分を良くするものではなく、良くない気分を抑えるだけのものだ。何も感じなくなるという人もいるね。サイケデリックは全く異なる効果をもたらす。悪い気分にならないだけでなく、良い気分にさせてくれるんだ。だから合法化は避けられないだろう。」このエピソードで最も強調されたのは、マイクロドージングという服用方法、そして、いかにサイケデリックスが安全で、ポジティブな効果があるかということだろう。

EP13 “ENERGY!” with Master Mingtong Gu

中国伝統の「気功(Qigong)」のマスター Mingtong Gu を招いたEP13 “ENERGY!” 。「気功」とは中国古典の「老子」や「荘子」にも記載があるほどの長い歴史を持つ「呼吸法と体操」のことであり、ヨガと同様に一種の瞑想とも言えるだろう。Mingtong Gu は気功、そしてエピソード・タイトルにもなっている”ENERGY”について、こう説明し、エピソードの終盤には新曲(インスト)が披露された

Mingtong Gu「一般的に気功はシャーマニズムから生まれたと言われている。シャーマニズムは自然や動物、地球と繋がることを本質に置いていて、とても実用的な理由、つまり長生きをするという目的で用いられる。もう一方では、スピリチュアルな冒険としても用いられてきた。重要なのは、スピリチュアルな気づきと共に、地球のエナジー、人生の源、健康と幸福の源と繋がること。気功というのは、ただの呼吸法ではない。気づきを得て、エナジーを育む知恵を手に入れるというのが本質である。」

Mingtong Gu「私たちはエナジーを力の源として使っている。だから心を開いたり、何かと繋がったり、どんな行動をするにもエナジーが伴うんだ。気功の瞑想がユニークなところは、自分自身のマインドとエナジーを繋ぎ合わせることが目的である、ということ。量子物理学の世界では、物理的な世界がエナジーによって構成され、宇宙もエナジーに満ちているとされている。宇宙において物理的に測定可能な”モノ”はたったの4%しか存在せず、残りの96%は物理的じゃないんだ。それが何であるかは科学的には判明していないが、私たちはそれをエナジーの力だと信じている。人が言うところのダーク・マターという存在だね。そこで浮かぶのは、このエナジーに満ちた宇宙の中で、何に、どうやってアクセスするかという疑問だと思う。私たちは物理的なものに集中しすぎて、見えないもの、精神的なものを忘れてしまう。」

blonded radio 直近3エピソードの中では、Frank自身の声はほぼ入らず、対談相手の言葉が大半となっているが、彼の興味の方向が内省や瞑想に向いているというのは明確だ。そして、各分野の科学的な根拠に基づいたメソッドは、私のような知識のない人にも、一定以上の納得感をもって届けられている。EP12で語られたマリブでのスタジオ・セッションが彼の楽曲制作なのか、そうでないかは不明だが、この3エピソードが私たち自身の内省のヒントになるものであることは間違いないし、Frank Ocean による今後の作品における一要素となる可能性は十分にあるだろう。

Credit

Text :
Shinya Yamazaki (@snlut)

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