「あれ観た?」いまチェックしたい映画&ドラマ・シリーズ / Did You Watch That? Vol.1 (22.07)

June 29, 2022

「Did you watch that?」

大きな衝撃を受けたり、人生の一部になるであろう作品を見たとき、どうしても友達と感想を共有したくなる。「あのセリフが好き」「あれってどういう意味?」話題は尽きない。作品を全部解釈するのは難しいけど、とにかく、その時間が楽しいことには違いない。連載「Did you watch that?」では、編集部がいま「あれ観た?」と友人へ個人的にオススメしたくなる4本を紹介。

『アトランタ』シーズン3

『ストレンジャーシングス』の作者であるダファー兄弟が新シーズンのことを数時間に及ぶ「1本の映画」であると言ったように、今の時代、自らのテレビシリーズを「映画」と形容する作家は多い。ヒロ・ムライとドナルド・グローバーが中心となるドラマ『アトランタ』シーズン3のチームは、そういった作品とは対照的に「テレビシリーズ」という形式だからこそできることを存分にやっていると思う。
各エピソードで独立したストーリーを語る本シーズンは、主人公たちが不在のエピソードも各所に配置され、全体をホラー・モチーフが貫く。寝入る場面は一切写されないが、目覚める描写が繰り返される、悪夢のようなムードを演出しながら、アメリカとアムステルダムにいる主人公を繋げるEP1をまずは見てほしい。見たくなくとも見てしまう悪い夢は、すべての人々が日常に根付く問題と無関係でいられないことを表しているよう。最終話でヴァン(ザジー・ビーツ)が見せる、生活からの脱出願望は、シリーズ史上、最も切実な感情を表出させる瞬間だったと思う。他者とのコミュニケーションや世界の構造を、より辛辣さを湛えて炙り出していく本シーズンが、過去の「アトランタ」シリーズと違うことは明確だ。(Tatsuki Ichikawa)

待望のシーズン3!アトランタからヨーロッパに降り立った3人の生活の変化は、その服装に象徴的に表れている。アル(ペーパーボーイ)とダリウスはグッチを纏い、アーンも「大物ラッパーのマネージャー」が板につくクールなサイド・パート73分けに変化。パソコンが使えない、ギャラも回収できない、たどたどしいマネージャーの姿はどこにいったのか、と少し寂しい気持ちにもなる。今シーズンは過去のシーズンに比べ、「怒り」を感じる痛烈でシリアスな批判を見せる場面も多く、全てのエピソードが他人事ではない。EP4「Big Payback」は、黒人たちが「先祖が奴隷にされた」ことを理由に、その主だった白人の子孫を訴え、現代で大金を掴むという話だが、このエピソードがもし起こりうるのなら、日本でだって当然同じことが起こるのでは?と思う。「彼女にとっては奴隷制は過去じゃない。謎でもない。興味の対象でもなく、残酷な事実だ。」と*もう1人のアーンが語ったセリフが忘れられない。
BADBADNOTGOOD「In Your Eyes ft. Charlotte Day Wilson」や、Skinshape「Rubber Globes」など随所に散りばめられる音楽は今シーズンも最高。ちなみに今シーズン、初めてアル(ペーパー・ボーイ)のライブ・ステージがほんの数十秒披露されるので、ファン的にはそこも見どころ!ヨーロッパに降り立った4人と風景の美しさにも注目しながら、しっかりと物語を見つめたい。(Shinya)

『ステーション・イレブン』

『アトランタ』や『バリー』を見ていると、巧妙かつダークなユーモアを手掛けさせたら右に出るものはいないという印象のある監督ヒロ・ムライだが、彼はエモーショナルな世界規模のディストピアドラマでもその才覚を発揮している。
原作はカナダの作家エミリー・セント ジョン・マンデルが2014年に発表した同名小説。それが世界的なパンデミックを通過した2020年代に、図らずも同時代性を獲得する形で、HBOのリミテッドシリーズとして映像化され、ムライも2エピソードを手がけている。コロナ禍に音楽作品をはじめとする様々な表現が内省に向かっていったことは記憶に新しいが、本作もそういった作品たちと近いムードがある。パンデミック、文明崩壊という大きすぎる出来事を前に、半径数メートルの他者との関係性、人々の心の癒しを模索する本作のストーリーは、その大きな出来事を現実に通過した今だからこそ、より切実さを携えて私たちの心に訴えてくる。
「身近な人の死をどう受け入れるか」というテーマに真髄に向き合った第3話はまさにそこに当てはまると思う。大切な人を亡くすことは(文字通り)世界がガラッと変わってしまうことなのだと。また、演劇、コミック、音楽など様々な芸術作品を劇中で重要なモチーフとして散りばめているのも見逃せない。創作物、 演技、物語によって過去の人々の想いが掬い上げられていく物語は、まるで芸術と今を生きる人々の関係性にまでタッチしようとしているかのよう。複雑な物語をまとめ上げたパトリック・サマーヴィルの脚本は、今を生きる人々の感情に寄り添いながら、壮大かつ自由な物語の可能性を見せてくれる。(Tatsuki Ichikawa)

『ロシアンドール』 シーズン2

ナターシャ・リオンの声がとっても良い。ハードボイルドかつチャーミングな魅力にあふれるハスキーな声の彼女が、自らの誕生日の夜を繰り返すタイムループものだったシーズン1から約3年の月日が経ちリリースされたシーズン2は、大胆にもタイムスリップものに。

前シーズンで、主人公ナディアの人物像が明かされた中、今回は1982年にタイムスリップし、自身の母親(演じるのはクロエ・セヴィニー)とリンク。 人生における傷と時間をめぐる物語は、彼女のルーツに迫りながら、さらにスケールを拡大させていく。タイトルの『ロシアンドール』とは、本作のコンセプトを象徴するマトリョーシカ人形のことで、物事が「繰り返す」ことを表しているが、今シーズンでは、ついには他者の記憶を追体験しながら、そのコンセプトをより多層化させ、さらにディープに、不可思議で苦い人生の複雑さに迫っていく。一方で、流れるようなカメラワークと編集、絶妙な選曲に彩られた本作の時間旅行は、実写ドラマとして高水準のなめらかさを獲得しているが、その最大の要因は、やはりナターシャ・リオンというガイド役がいることだろう。深淵なテーマをカジュアルなコメディとして体現してみせる、彼女の声に身を任せてみてはどうだろうか。(Tatsuki Ichikawa)

『ニューヨーカーの暮らし方』

人生という壮大な謎に迫った後は、 生活に溢れる謎に迫ってみるのも良いかもしれない。 映像作家ジョン・ウィルソンの『ニューヨーカーの暮らし方』は、まるで探偵小説を読んでいるように、小さな日常の謎から思いもよらないところに連れていかれるドキュメンタリーである。原題は『HOW TO WITH JOHN WILSON』。「駐車スペースの見つけ方」や「電池の捨て方」など、ニューヨークで生活していく中での様々な How  To を出発点に、大都会ニューヨークの市井の人々の暮らし、その可笑しさを切り取っていく。一風変わったドキュメンタリーである本作は、ドキュメンタリー映画にコメディを融合させたような味わいすらもある。いずれにしても(なんと一時期私立探偵をやっていたこともあるという)ウィルソンの観察眼と言葉、アイロニカルながらどこか優しさもあるユーモアが本作をオリジナルなものにしているのは間違いない。ふと、ウィルソン自身の人生にもフォーカスされ、温かみのある人生讃歌を打ち出している構成も見事と言えるだろう。因みに日本で配信されているのは2021年にリリースされたシーズン2のみ。各話独立した作品とはいえ、シーズン1の配信も期待したい。(Tatsuki Ichikawa)

「ニューヨークってこんな面白い街なのか」と彼の断片的な映像の数々を見ていると想像が膨らむ。三輪車で街を移動するナイス・ガイ、人の身体くらいあるキリンのぬいぐるみを持って駅を闊歩する人。沢山の刺激が溢れている。個人的には「どうすればワインを嗜めるのか」というエピソードがお気に入り。ウィルソンはそれっぽく匂いを解説したりして、ワイン通になろうと尽力するが、「この世界に入るのは間違いかもしれない」と上手く馴染めない。そう思っているときに彼が出会ったのはエナジー・ドリンクの試飲会だ。そこでは誰も味を確認せず、お互いを詮索せずにスムーズな会話が繰り広げられる。彼自身もリラックスした様子だ。このドリンクが気に入った彼は、ドリンクの生産を行う会社の社長宅にノーアポで突撃する。「なぜいきなり?」と思うかもしれないが、この直感的な行動こそが、このドキュメンタリーの面白いところだ。結局、彼は社長と打ち解け「ここではとてもくつろげたんだ」と自分の居場所をエナジー・ドリンク社長宅に見つける。自分を偽るのではなく、自分がどんなものが好きなのかに正直になること、そして直感的に行動することの価値を屈託なしに優しく教えてくれている。ニューヨークという街が面白いというよりも、彼が刺激的な物事を生み出し、見つけ、フィルムに収められる人だというのが正しい表現かもしれない。不思議と何度も見返したくなる作品に出会えた気がする。(Shinya)

Credit

Text :
Tatsuki Ichikawa (@tatsuki_99)
Shinya Yamazaki (@snlut)

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