『Shelley FKA DRAM』- Shelley FKA DRAM
新たな名前で紡ぐロマンス、その音楽性について / album review

June 21, 2021

リル・ヨッティとの『Broccoli』のヒットから5年ほどたち、元々のステージネーム DRAM からの改名を経て、リリースされた待望のセカンドアルバムは、シンガーとしてのアーティスト性を強め、よりメロディアスな楽曲群で構成された作品となっている。タイトルは、その新たな名を高らかに宣言するような『Shelley FKA DRAM』。本作で強調される音楽性は、[I like to cha cha] と無邪気に踊っていた、あるいは犬と満面の笑みでアルバムジャケットに映っていた、そんなかつての姿とは違う、振り切ったもののように見える。今回の記事では、そんなシンガー兼ラッパーによる新作アルバムから見いだせる音楽性について言及してみたい。

Pitchfork

ビタースウィートな愛についてのレコード

『Shelley FKA DRAM』は切実なロマンスアルバムの秀作と言っていいだろう。一曲目「All Pride Aside with Summer Walker」から、早速我々にその手ごたえを感じさせる。

If I swallow all my pride
Then you then would be alright
And if you gave yourself to me
That would be enabling
-All Pride Aside

その後、[Addicted to love]と、正に愛におぼれていく様が表現されるこの楽曲には、ある女性に恋心を抱いた主人公の姿が綴られている。だが、何よりも耳に残るのは初っ端のShelley FKA DRAM による歌いだしである。この、今にも消えてしまいそうな脆さと儚さを湛える歌声は、まるで彼がアルバムジャケットで吐き出している煙のようだ。すぐにでも消えていってしまいそうなものを掴もうとするような、恋の心情に、見事に合致して聞こえる歌声は、まるでその身体を包み込み浮遊しているような柔らかい声質から、近い距離感を求めてくるような親密さも感じさせる。

その感覚は、官能的な2曲目「Exposure」にも引き継がれる。この曲では、体だけではなく、心での親密なつながりを求める主人公の心情が綴られている。

Let me love you inside-out and outside-in
Let me touch your soul before I touch your skin
When you expose yourself to me
You have my consent, I wanted to see
What lies underneath
Cause beauty to me is more than skin-deep
– Exposure

この序盤の展開を聴いてみるだけでも、既に堂々たるメロドラマを歌詞の中で展開させていることが見てとれるだろう。そして、そういった甘いラブソングに、Shelley FKA DRAM の声質とフロウが貢献していることも。

元々、メロディアスなフロウは DRAM の持ち味だったわけだが、本作の前半では、極端な歌い上げなどを抑えた歌唱によって、よりソフトな味わいを深めた印象である。それはまるで、マーヴィン・ゲイの柔らかみのある厚さとエディ・ケンドリックスがバラードで見せる繊細さを合わせたような歌声にも聞こえる。

対照的に、中盤の「The Lay Down with H.E.R. & WATT」は、ソウルフルで力強い歌唱が目立ち、官能的な恋の熱した状態を騒々しくも鮮やかに演出する。レッド・ホット・チリ・ペッパーズのチャド・スミスによるドラム、終盤かき鳴らされるギターサウンドなどのロック音楽的な成分も、Shelley とH.E.R.の歌唱と共に、その演出に加担する。

その後、切なげな展開を見せる本作は「Cooking With Grease」と、過去の恋愛を振り返る「Remedies」で、パートナーシップの快楽的な幸福感から、その先に待つ「苦さ」までを網羅する。アルバムを通して、ひとつのストーリーを展開させ、正にビタースウィートなラブストーリーとして、実に切ない着地を向かえることになるのだ。それは、まるで夢のように消えていってしまった二人の時間に思いを馳せるように

I had a dream that we made up and made love
And you gave back a piece of my heart
Then we invented a time machine
To go back to the very start, before all the
– Remedies

人と人が結ばれ、別れていくという、実にシンプルで普遍的、故にその中の複雑さや感情を読み解いていくことでドラマチックに彩られる「恋愛」や「愛」というモチーフが、繰り返し数えきれないほどの名作を生み出してきたことは間違いないだろう。その中でも、本作の Shelley FKA DRAM の語りは、形式的にも内容的にも非常に上品なものであるように聞こえる。官能的な描写を要所で交えながらも、自らの脆弱さと苦しみに向き合い、純粋な恋心を繊細に綴る。そういった意味でも、ヒップホップ以降のR&B、ソウルの姿というよりも、寧ろ、マーヴィン・ゲイが「Distant Lover」で、もしくはテンプテーションズが「Just My Imagination」で歌っていた、あの恋焦がれる純真な男性像や儚さの方に接続するようにすら思えてくる。もしくは、Shelley と同じヴァージニア出身のディアンジェロが90年代に産み落としたいくつかのラブソングを聴きなおしてみてもいいかもしれない。

垣間見せるもう一つの素顔

一方で、気づいた人も多いかもしれないが、3曲目「Something About Us」はダフトパンクの同名曲のカヴァーである。元々の楽曲からエレクトロ要素を取り払い、R&B成分をより強めたカヴァーであるわけだが、この曲をここに持ってくるという構成にも唸らされつつ、唐突にダフトパンクを引用してくること自体は、このアルバム全体のイメージからすると少々意外にも思える。

ここで、このアルバムのラストを飾る曲に耳を傾けてみたい。物語的なクライマックス「Remedies」に続く最後の曲「Rich & Famous」は、その直前に挟まる Shelley 自身による語りでも仄めかされる通り、そこまでの曲と比べても、ファンク音楽の要素がわかりやすく前面に出た楽曲となっている。

今作の甘々なR&B、ソウル趣向の雰囲気や展開を、一見覆すような騒々しく激しい楽曲だが、事前にダフトパンクの引用もあったように、Shelley FKA DRAM というアーティストの根底に、ファンク音楽の文脈があることがここからわかるだろう。そう言われてみれば、DRAM が2018年にリリースしたEP『That’s Girl Name』が完全なるファンクレコードであったことを思い出す。多くのアーティストがそうであるように、元々このシンガーの頭の中にも、ファンクへの欲望があったということだ。

前作アルバム『Big Baby DRAM』がラップとR&B、ソウルなど、様々なジャンルをバランスよく接続させる陽気でモダンなレコードであったのは確かだが、同時にどこかレトロな味わいもほのかにしたのを覚えている。今作においては、後者の感覚がより強まったと認めざる負えないが、その背景には、当然のようにもう一つの音楽性がある。

甘々なメロディが充満した本作において、今にも踊りだしたい陽気な男が、浸っているリスナーの隙を狙って顔を出す。それは、感傷的な Shelley のもう一つの顔が DRAM であるように。いや、実際はどちらもそんなに違わないのかもしれない。名前なんていつでも変えられるのだ。

勿論、こんなところから、「次は、また今回とまったく違うような、楽しいファンクレコードをがっつり作ってくれるかもしれない!」と野暮な期待をしてみることもできる。ただ現時点では、これこそが今の Shelley であり DRAM 、シンガーでありラッパーの姿なのだと、その多面性に心を躍らせながら新作に浸っていたい。

Credit

Text : 市川タツキ

幼い頃から、映画をはじめとする映像作品に関心を深めながら、高校時代に、音楽全般にも興味を持ち始め、特にヒップホップ音楽全般を聞くようになる。現在都内の大学に通いつつ、映画全般、ヒップホップカルチャー全般やブラックミュージックを熱心に追い続けている。(IG : @tatsuki_99 )(TW : @tatsuki_m99

RELATED POSTS

NEWS

FEATURE

LATEST LYRICS

©︎ SUBLYRICS, 2021, All rights reserved