DUCKWRTH SuperGood

Album Cover

「みんなが喜びや幸せを思いだすために」| DUCKWRTHが引き込む『SuperGood』な世界

August 30, 2020

LA・サウスセントラル出身のラッパー / シンガー DUCKWRTH(ダックワース)は着実にその知名度を世界へと広げている。自身のデビューアルバム『I’m Uugly』を皮切りに、『Spider-Man : Into the Spider-Verse』への参加(収録曲「Start a Riot」は現時点で彼の最大のヒット曲だろう)、昨年リリースしたEP『The Falling Man』などでファンク、R&B、ゴスペルを取り込んだオリジナルなサウンドを多くの人へと届けてきた。

PharrellとOutkastをアイドル視するアーティストが8月にリリースしたセカンド・アルバム『SuperGood』はLAのサンセット、もしくは、雲に包まれるような温かみのある優しさと幸福感に包まれている。過去作で人間のリアルな表情・感情を「ugly」という言葉に置き換え作品のテーマに据えてきたように、常に彼は人間(自分も含めた)のリアルなフィーリングを音楽に映し出してきた。EP『The Falling Man』について「希望や愛を見つけられずに人生の終わりへ向かっていくキャラクターを主人公にした。これはまさにこの時期の俺自身を描いているんだ。」と語るのは、まさにその例の一つだだろう。

当然だが、彼も私たちと同様にパンデミックのネガティブな影響を被っている。BLMのムーブメントが大きく広がる上半期でもあったし、2020年をメンタルヘルスにとって「良い年だった」と言える人はおそらく少ないだろう。一方で(ポジティブに捉えれば)パンデミックは家庭内にある何気ない日常の幸せと、今まで過ごしてきた日常の尊さを気づかせてくれた出来事・時期でもあると思う。このあと全文を紹介するDJBoothによるインタビューで、「最近あった良い出来事」を尋ねられたDUCKWRTHはこう答えている。

細かいことで言えば、昨晩パートナーと一緒にタコスを作ったことかな。最高だったよ!ビーガン料理だったし!楽しかったな。

彼にとっての「SuperGood」が何たるかを的確に表現したこの回答は今作のサウンドにも直接的に繋がっている。彼にとってのリアルな喜びや、幸せ、楽しさ、つまり「SuperGood」はどこにあるのか。それはきっと日常であり、この作品はその幸せを優しく、そして楽しく私たちに感じさせてくれる。

オープニングトラック「New Love Song」でパルムツリーと、愛、潮風を賛美し、彼の居場所(日常)がLAにあることを示し幕を開けた一作を貫くのは、ひたすらに身近な人間と日常への愛情である。表題曲「Super Good」でその意思はハッキリと伝わってくる。

“ 君こそが俺を最高な気分にしてくれる
この心地なしでは生きていけない
君こそがSuper Good なんだ – Super Good ”


彼はインタビュー中で、「政治的な意味合いを持つような楽曲は作りたくなかったんだ」と語っている。しかし私はそれをただ単に、現実から目を背ける「逃避」をしたかったのではなく、現実の中にある日常や身近な人との愛情・信頼関係こそが、どんな状況であろうとも、彼にとっての幸せ、そして私たちにとって普遍的な幸せであることを表現したかったからであるように思えるのだ。きっとそのフィーリングこそが人間を「SuperGood」な世界へ連れて行けるのだから。

Source : DJBooth

ー前作の『THE FALLING MAN』をリリースした時には「俺たちはメチャクチャだよ。でも良い部分も持ってる。落ちたとしてもまた這い上がれるんだ」と言っていたね。最近もこんな経験をしたかい?

DUCKWRTH:今年だな!2月に重い病気になってしまったんだ。1月までにレコーディングは2曲以外全部終わってたのに。今年は想像とは全く違う1年になってるよ。病気になってから身体的、精神的とも製作できるようになるまでには3ヶ月かかったね。マネジメント側に急かされるまで、3ヶ月間はアルバムのことは考えないことにしてたんだ。まずは健康第一だからね。そしたらパンデミックや白人警察官による銃殺事件もあったから、間違いなく今年は「落ちこんだ年」と言えるよ。

ー今回のニューアルバムの題名は『SuperGood』だね。最近なにか良いことはあった?

D:このアルバムのリリースだね!色んなことがあって、やっとの思いでリリースできたんだ。いやもっと細かいことで言えば、昨晩パートナーと一緒にタコスを作ったことかな。最高だったよ!ビーガン料理だったし!楽しかったな。

ーちょうど昨日ガールフレンドと一緒にナチョスを作ったよ(笑)

D:まじかよ!こういうの最高だよね。ドラマティックじゃなくても、シンプルなことをしてるだけで最高だよ。

ーパンデミックの難しい時期だからこそポジティブなサウンドを作ったのかい?

D:そうだね。喜びとは何か、幸せとは何かを思い出すためにこれはとても重要なことだと思ってるよ。政治的な意味合いを持つような楽曲は作りたくなかったんだ。今は他にも楽曲を製作中だよ。皆にもう一回幸せを思い出してもらいたいからね。

ーニューアルバムの特設サイトでは「このアルバムの製作には何年もかかったんだ。タイトルと曲調は音楽を始めた頃から考えてた」と言っていたね。長い時間かけて取り組むことで、何か成長はあった?

D:前作のタイトルは『THE FALLING MAN』で、希望や愛を見つけられずに人生の終わりへ向かっていくキャラクターを主人公にした。これはこの時期の俺自身を描いていて、心から愛せるモノや俺の人生を彩るカラーを探してたんだ。恋人がほしかったっていう意味ではなくて。この時期は落ち込んでたわけじゃないけど、幸せでもなかったんだ。だから明るいビートは作れなかった。でも今年に入るくらいの時期にやっと見つけられたんだ!それで「よし、ついにこのアルバムを作る時が来たな」って。

ーこのアルバムは幸せを見つけるきっかけになるんだね。まさに今皆が探してるものだな。

D:皆色んな方法で幸せを探してる真っ最中だと思うから、そういう風に受け取ってくれて純粋に嬉しいよ。このアルバムがその手助けになれば良いと思ってる。たとえクソみたいな歌だったとしてもね!もし俺が皆を幸な時間に連れ出せれたら、自分の仕事を果たしたといえると思ってるよ。

ー2017年には「俺の音楽で、スタイルで、感覚で、皆を連れ出したい」と言っていたね。今回のアルバムではどう?

D:そんなこと言ってたね(笑)。その頃の俺はかなり単純な構成でアルバムを製作してた。だけど今回のアルバムでは曲と曲をどう繋ぐかの工夫をしてるんだ。俺たちの曲の繋ぎ方は普通じゃなかったり、バックに即興のギターを入れたりしてる。これがこのアルバムの変わってるところだし、そういう意味で俺は皆を「連れ出そう(常識から)」としてるのかもしれないけど、俺はただ曲を作りたかっただけだよ。次の作品はもっと奇抜かもね。今回は皆が「これ俺のお気に入りだよ」って言えるようなアルバムに仕上げたよ。

ー2012年にリリースした『DUCKTAPE』に比べて、どれくらい成長してると思う?

D:ラッパー、プロデューサー、作詞家としての俺自身への期待は変わってきてるんだ。ヴォーカルに関しては今回のアルバムでは他の人にも長い時間歌ってもらって、俺はバックグラウンドの立ち回りもしてるんだ。友達のショーケースみたいにね。エゴの部分じゃなくて曲全体のフィーリングに集中してほしかったんだよ。『DUCKTAPE』では「DUCKWRTHのサウンドは何か。俺を表現できてるか」を考えてたけど、今回は「皆がどう感じるか」にもっとフォーカスしてるよ。

ー今回は今まで一番尖ってて、一番明るいサウンドのアルバムだと思うよ。製作は楽しかったかい?特に君の友人と一緒に製作するときは。

D:アーティストやプロデューサーが違えば、考えもしなかった要素も追加できると思ってるんだ。「Say What U Mean」のコーラスには、1単語だけを歌う2人の女の子を使ったりしたし。これは俺の友達がやってたことなんだ。俺はいつもラッパーとして物事を考えようとしてるけど、これは単語についてじゃなくて、皆の口から出るメロディーやサウンドについてのことを言ってるんだ。「Find A Way」のハーモニーなんてまさにそうだね。相棒の Radiio Ahleeがスタジオで口ずさんでたことを録音したんだ!友達は俺が手に入らないような要素を持ってきてくれる。これが最高なプロダクトを作る方法だよ。

ーこのアルバムでも君は完璧主義者だったのかい?

D:たしかにアルバムのリリースが8月になったのは、俺が完璧主義者だからだと思うよ(笑)。2月にほとんどの製作は終わったんだけど、何ヶ月もサウンドにこだわってたんだ。俺のエンジニアに聞いたら教えてくれるよ。俺が何回も「リバーブを小さくしてくれる?いやもっと上げてくれる?いや下げて。これじゃ下げすぎだよ、上げて!車の中にいるみたいなサウンドにしてくれる?オレンジみたいなサウンドには?」とか言ってたって。「もうどうすればいいんだ!?」って感じだったと思うよ(笑)。感情はすべてがピンポイントに表現できてないとダメだと思ってるんだ。俺は自分の耳とハートを信頼してるからね。ここまでこれたから特に。

ーもし理想的なリスナーがいるとすれば、今回のアルバムの1周目はどんな時に聴いてほしい?

D:ゆっくり聴ける時間があるときに座ってか、シャワーを浴びてる時か、ドライブをしてる時。もしくは6時前後のマジックアワーの時間帯で、空が赤みがかってる時かな。あとはウィードを吸ってる時か良い感じの女の子と一緒にいる時だね。自転車に乗りながら。時間のある時でも、忙しい時でも良いんだ。アルバムには引力が働いてて、君たちを今の世界から「SuperGood」な世界に引き込むからさ。

Credit

Writer : Shinya Yamazaki
Translator : Mizuki Yoshida
Edited by : SUBLYRICS

RELATED POSTS

NEWS

FEATURE

LATEST LYRICS

©︎ SUBLYRICS, 2020, All rights reserved