Odd Future
May 18, 2020
Odd Future(オッド・フューチャー)、またの名をOFWGKTM(Odd Future Wolf Gang Kill Them All)が世界に注目され始めたのは、今から約10年ほど前だっただろうか。
「天才集団」「最狂集団」などと形容された西海岸の若者たちは、その物騒なクルー・ネームや、突飛な行動とキャラクター(主にタイラーやジャスパーのことだろうが)、刺激的なリリックとサウンドから大きな注目を浴び、自由で複合的でインディペンデントな「新たなヒップホップ・クルー」の形を作ってきた。それぞれが独立しながら、何事にもオープンで、何にも恐れない若者の集団は、世界中の若者たちに大きな影響を与えたことだろう。また日本に住む方ならドーナツを模したロゴがプリントされたファンシーなフーディを一度は目にしたことがあるかもしれない。
恐らく、当時の彼らへの評価は「天才」と言いつつも「Funny」や「Crazy」という言葉に表されれるような「どこかおバカで、愛嬌があり、ユニークである」というイメージに先行されていたように思える。しかし今、彼らは「天才」という言葉を本当の意味で自分たちのものにしているし、その言葉に異論を投げかける人はいないだろう。Tyler, The Creator、Earl Sweatshirt、Syd、Domo Genesis …、そしてFrank Ocean が一堂に会するクルーなんてハッキリ言って今では全く考えられない。
(Terry Richardson)
「もうあの7文字(OFWGKTM)は存在しない」
クルー初のミックステープのリリースから7年が経ち、Tyler Okonma が2015年に投稿したツイートは、Odd Future という16人組のクルーの実質的な消滅・解散を意味した。「全員が独立したアーティストたちだ」とFrank やTyler が語るように、クルーの解散後もそれぞれがユニークな活動を行うメンバーたちは今、どんなフィールドで、どのような活躍をしているのかを、今記事では紹介していこうと思う。
Tyler, the Creator(タイラー・ザ・クリエイター)
「ゴキブリを食べる男!」
そんな見出しが懐かしく思えるほど、『Wolf』以降、彼は多くの作品をリリースし、その度に賞賛を浴びてきた。とりわけ最新アルバム『IGOR』でのグラミー賞最優秀ヒップホップ・アルバムを獲得したことが記憶に新しいが、現在はアパレル・ライン「Golf Wang」や、映像作品の制作、Camp Flog Gnaw の開催など、音楽以外の活動にも勤しんでいる。16人の中でも最も説明が不要と言えるメンバーの一人だろう。
Hodgy (Beats) (ホジー・ビーツ)
OF のオリジナル・メンバー7人のうちの1人Hodgy。Left Brain とのラップ・デュオMellowHype で2012、2013年に2作品、カナダのシンガーRuben Young や、川崎出身のDJ Tomoth の作品に客演として参加。個人としてもスタジオ・アルバム『Fireplace』を2016年にリリース。それ以降は少々制作に行き詰まっているのか、「2018年内にMellowHypeとしての作品をリリースする」という宣言以降、まとまったプロジェクトは公開されていない。
2015年の「Camp Flog Gnaw」でのパフォーマンスをTyler に注意された事件もあったが、昨年には3年ぶりとなる「No Brainer」というシングルをリリースしており、今後も音楽活動を続けていくようだ。OF の中でも最も露出が少ないメンバーの一人で、今後の活動についてのヒントは現状なさそう。セカンド・アルバム、MellowHype の復活を楽しみに待ちたい。
Left Brain(レフト・ブレイン)
Hodgy と共にMellowHype として活動するラッパーLeft Brain。二人のユニットだけではなく、コンプトン発のラップ・デュオLNDN DRGS とジョイント・アルバム『Brain on DRGS』を2018年にリリース、個人としても2017年にデビュー・ミックステープ『Mind Gone Vol.1』をリリース、翌年に『Mind Gone Vol.2』をリリースするなど、ホームタウンのLA のアーティストたちと共演しながらコンスタントに作品を発表している。
2018年のインタビューでは「テカシ・69と共演したい」と驚きの発言をしているが、今でもその気持ちに変わりはないだろうか。
Pyramid Vritra(ピラミッド・ヴリトラ)
アトランタ出身、高校卒業後にLA に拠点を移したVritra。OF では後にThe Internet を結成するMatt Martians と共にThe Jet of Age Tommorow というユニットとしても活動してきた。
2012年以降は毎年2枚以上の作品をリリースし続け、2014年からはKnxwledge、Madlib、J Dilla、MF Doom、Mndsgn などが所属するLAのインディ・レーベルStones Throw Records から5枚のEP、4枚のアルバムをリリースしている。その作品数と、Stones Throw のカラーを鑑みれば、彼がいかに音楽に対して愛情を持っているかは明確だろう。決して派手ではないが、色褪せなない作品を制作し続けている。昨年リリースされた『FEMME』は特にオススメ。
Jasper(ジャスパー)
2008年、OF の結成から1年でTyler と「I Smell Panties」なるユニットを結成し、OF Tape にもラッパーとして参加してきたJasper。特に「Oldie」で披露された「Hey It’s Jasper, not even a rapper」のラインの衝撃は今でも忘れられない。
そのスピット通り、彼はラッパーではなく現在、アクターやタレントとしての活動を主としている。2012年からOF の仲間たちと共にコメディ・シリーズ「Loiter Squad」に出演、2017年〜Tyler が監督を務めたアニメ・シリーズ「The Jellies!」に、昨年からはVICE TV にて様々な「未体験」をチャレンジする番組「Jasper & Errol’s First Time」に主演として出演するなど、その愛すべきキャラクターを活かし、アクター / タレントして活躍している。
Tyler のグラミー賞授賞式で任天堂Switch を片手に登壇するなど、体裁など気にしない彼の変わらない姿にOF ファンは笑みを浮かべたはずだ。Taco と共にTyler とは今でも親交が深く、ハングアウトする様子が度々ソーシャルで見られる。
Casey Veggies(ケイシー・ベジーズ)
イングルウッド出身のCasey はLA のローカル・ミュージックを今日も作り続けている。Mac Miller 、Nipsey Hussle、Kendrick Lamar らのライブ・オープニング・アクトを務めたラッパーは順調にキャリアのステップを踏み、2009年から9つものスタジオ・アルバムをリリースしている。
どの作品でもTy Dolla $ign や Dom Kennedy、YG など地元を共有する豪華ゲストが参加しており、最新作ではLarry June とも重なるベイ・エリア的なサウンドを披露している。その重厚なドラムスと爽やかなメロディで強固なファン・ベースを確立、Spotify の月間リスナーも40万人を超える。Tyler や Frank、The Internet 、誰とも音楽性は似つかないが(だからこそ途中でOFから脱退したのだろう)、ローカルへの愛を感じるクールな作品は是非チェックしてほしい。
Matt Martians(マット・マーシャン)
OF 時代はVritra と共に「The Jet of Age Tommrow」としてミックステープを一作リリース。2011年にSyd と共にThe Internet を結成。ツアー・メンバー(のちに加入)である、Patrick Paige、Christopher Smith、Tay Walker と共に同年『Purple Naked Ladies』をリリース。メンバーの脱退・加入等を繰り返しながら、2015年には『Ego Death』でグラミー賞・最優秀コンテンポラリー・アルバムにノミネート。日本でも毎年のようにライブが行われるなど、随一の人気を誇るバンドへと成長した。
OF のMVでも基本的に控えめなMatt だが、The Internet の作品の大半のプロデュースを行っていることもあり、バンドには欠かせないリーダー的な存在だ。個人としても『The Drum Chord Theory』『The Last Party』をリリースするなど、プロデューサーとしての手腕が光っている。
Taco(タコ)
OF の最年少メンバーTravis “ Taco ” Bennett。肩書きはDJ でTyler のバックDJ を務めるも、音楽フェス「Camp Flog Gnaw」のオーガナイズをTyler と共に行ったり、音楽業界を中心に幅広いコネクションを持ちながら、本人曰く「ただただ好きなことをやっている」そう。
「スケートをしてたらTyler と出会ったんだ」「Kendall Jenner とは地元が一緒で昔から友達だよ」と十代前半から物凄い出会いをしてきたTravis。ファッション・アイコンとしても注目される彼のインスタグラムのフォロワーは100万人を超えるなど、常に人を惹きつけてやまない魅力がある。一方で「常に俺は才能溢れる仲間に頼ってきた」と自立することも望んでおり、17年のインタビューでは「まだ無名のアーティストを発掘して、僕の好きなアーティストやビートメイカーとリンクさせたりしているんだ」とそのコネクションを活かしながら、利益を求めず、繋がりとそこから生まれる魅力的なアートのために奔走していると語っている。昨年にはRe7ax Records というレーベルを設立するなど、さらにコネクター、レーベル・オーナーとして分野横断的に活躍してくれることだろう。
また2020年3月からはLil Dicky が監督を務めるコメディ・シリーズ『Dave』に出演。FXX、BBC で放映されるそうで、アクターとしての活動もスタートし始めたようだ。
Syd(シド)
意外と知られていないが、Syd はTaco の実の姉である。OF の作品やTyler のデビュー・アルバム『Wolf』の多くはSyd のベッド・ルームで録音したものということで、彼女とTaco がOF の面々と出会っていなければ生まれていない作品は数知れないだろう。(S/O to Syd and Travis and their parents!)
“ シドとトラヴィスの両親に送る、俺に飯をふるまってくれたり、暖かい飲み物を与えてくれてありがとう。あなたたちの思う以上にそれは俺にとって重要なことだったんだ。- Tyler, The Creator ”
上述のように、現在はMatt と共にThe Internet を結成、ヴォーカルとして個人・グループの両方で素晴らしい活躍を見せている。
Lucas Vercetti(ルーカス・ヴェルセッティ)
「Lucas」という名前自体はおそらくOF の中でも最も露出が少なかったのではないだろうか。しかし、彼はあのフーディに施された「顔面プリント」の張本人である。
(Terry Richardson)
彼はラッパーでもなければ、プロデューサーでもDJでもなかったため、当時ファンからは「マスコット」と呼ばれていた。実際はOdd Future Store やGolf Wang Store のストア・マネージャーを務め、現在はSupreme LA のショップ店員、Supreme のモデルとして活躍している。
Earl Sweatshirt(アール・スウェットシャツ)
OF 時代との音楽性の違いが最も顕著なのがEarl Sweatshirt かもしれない。2013年に1st アルバム『Doris』を2015年に2nd アルバム『I Don’t Like Shit, I Don’t Go Outside』をリリース。ダークで、どこか鬱屈したサウンドはOF 時代にも披露していたわけだが、彼は2nd アルバムのリリース後、UCLAでレース(人種)研究を行う母の勧めで、2年間サモアに移り住み、特別なセラピーを受けていた。
そこでアフリカン・アメリカン、ラップ・ミュージックの歴史などに深い興味を持った彼は2018年に『Some Rap Songs』で以前よりも抽象的で反復的なビートの上で暗い感情を吐露し、EP『Feet of Clay』では、自身のラップを「暗号である」と語りながら、アフリカン・アメリカンとしてのアイデンティティとその音楽に脈々と流れる歴史を学び、汲み取りながら表現を続けている。彼の作品を代表にOF メンバーたちはバイラル・ヒットを目掛けた作品作りは一切行っていない。そのメンタリティはOF 時代から全員が持っていたものだ。
Na-Kel Smith(ナケル・スミス)
Na-Kel はTyshawn Jones やSean Pabloと同じく2014年からSupreme のライダーとして「Cherry」や、「BLESSED」に出演し、パートを披露。Adidas, Fucking Awesome, Spitfire, Thunder からスポンサーを受けており、Adidas からシグネチャー・シューズをリリースするなど、スケーターとして大きな活躍を見せている。また昨年にはラップ・アルバムを2作品リリースしており、OF というグループの多才さを裏付けるような分野横断的な活躍を見せている。
Mike G(マイク・G)
クレンショー・ハイスクールでLeft Brain と、Casey Veggies に出会い、OF へと加入することになったMC・Mike G。意外にも幼少期、日本に住んでいたこともある彼だが、今もコンスタントにラッパーとして作品をリリースし続けている。最近はLAのバトル・ラップにも参加したりと、作品作りだけではない活動を行なっているそう。
Frank Ocean(フランク・オーシャン)
恐らく今最もコラボを切望されるアーティストFrank Ocean。2012年『Channel Orange』でグラミー賞を獲得、2016年にリリースした『Blonde』はその後の音楽シーンさえも一変させる作品になった。2017年〜は現在まではシングルを連続でリリース、過去作品が4年スパンでリリースされていることもあり、3rd アルバムを期待する声が大きくなってきている。
OF に加入前のFrank はJustin Bieber やJohn Legend のライターとして活躍、すでに大金を報酬として得ていたが、「俺はひどく落ち込んでいたんだ。でも彼らと出会って「彼らの自分たちで作り上げる」という精神性に惹かれ、救われた」と過去に語ったように、OF がいなければ今の彼はいないかもしれない。
Domo Genesis(ドモ・ジェネシス)
イングルウッド出身のラッパーは2012年にAlchemist とのジョイント・テープ、2016年にはデビュー・アルバム『Genesis』をリリース。このデビュー・アルバムはWiz Khalifa, Tyler, Mac Miller, Cam O’bi, Anderson Paak など豪華ゲストを迎えたR&B、ネオ・ソウルのような甘く、気だるいグルーブが漂う名盤だ。彼は幼少期に、ヒップホップよりもDramatics やTemptations といったソウル・ミュージックを聴いて育ったようで、その影響が色濃く現れているのだろうか。
2018年には2nd アルバム『Arent U Glad Youre U』を、同年にはEP『Facade Records』をリリース。『Genesis』とはまた異なるアグレッシブなDomo の姿を見ることができる。
L-Boy(L-ボーイ)
Jasper と同じくTyler によるコメディ・シリーズ「Loiter Squad」、コメディ・アニメ「The Jellies!」に脚本・アクターとして参加。特に「The Jellies!」は彼がSony と放映権に関しての契約を行い、総合監督を務めるなど、OF Team のドラマ・アニメなどの活動における中心人物だ。Jasper が主演を務める「Jasper and Errol’s First Time」でも総合監督も務めている。その後もOF 以外の作品でもアクター / ディレクターとしてドラマ、アニメなど複数作品に参加している。人気ゲーム・シリーズGrand Theft Auto 5 にも「地域住民」として登場しているそうだが、彼が登場する動画・画像などは検索しても一切見つからず、真偽は不明である。
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