September 16, 2022 : Written by Shinya Yamazaki
「天国はどう?」
このフレーズが頭から離れない。”言葉”そのものというより、そこにある愛情と、複雑な感情の渦のようなものが頭を巡っている。
トロント出身の詩人・シンガー Mustafa(ムスタファ)にとって、地元で起こる出来事の多くは優しくなかった。アルバムのタイトル「When Smoke Rises」は彼の仲間である Smoke Dawg(スモーク・ダァグ)がギャング間の抗争に巻き込まれ亡くなった出来事に由来しており、愛する家族たちに訪れる危険と、平穏を求める声が収録されている。
“ You know everyone I touch. Never makes it through. Will you make it through? “ - Separate
MUSTAFA
ここにある8曲は Mustafa が失った人への想い、そして記憶を形にしたものだ。そこには悲しみや、怒り、楽しかった思い出もある。それを彼の生まれ育った地元や、仲間との思い出を知らない、当事者でない自分が、”わかった気”にはなれない。では、彼が出来事をどのように受け止めたかを知り、別れや悲しみと向き合うための”助け”とすることは赦されるのだろうか。私はこの作品を聴いて、涙がこぼれた。それは彼自身の体験そのものを悲しんだというよりも、彼の別れとの「向き合い方」そのものに救われた気持ちになったから。
彼は「悲しみや復讐心も自分の一部で、敵視するものではないと思えた。」という。行き場のない感情と決別する必要はない、という考えは、作品そのものを貫く考え方とも言える。そんな「受け止め方」をこの作品に見始めたとき、彼の「天国はどう?」という亡くなった仲間に向けた言葉が、自分や、別れを経験した全ての人と完全に無関係だとは思えなかった。
“ 悲しみ、そして復讐心とのつき合い方を学んでいる途中なんだ。「悲しみ(grief)というのは”行き場のない愛”である」という文章を読んだ。俺もそんな風に、その気持ちを押しこめるのではなく、自分の抱える愛の向かう場所を探している。そのことを理解してから、「喪」に悲しみと復讐心の存在が自然なことであると認め、もう一度自分と向き合った。そうしたら、その感情も自分の一部で、敵視するものではないと思えた。
復讐を頭に浮かべるということは、失った人のことを想っているということ。けど、彼らのために、俺ができる最善の行動は、彼らとの記憶を”保存”することだった。復讐よりも保存することを選んだんだ。悲しみとのつき合い方も同じように考えた。たとえ、この愛情に行き場がなくとも、それを形にすることはできる。失った人を表現することはできるんじゃないかって。” – Mustafa on GENIUS interview
Mustafa – When Smoke Rises
May 28, 2021 (以下和訳リンク)
T.1 : Stay Alive
Produced by Simon On The Moon, James Blake & Ging
T.2 : Air Forces
Produced by Simon On The Moon, Jamie xx & Ging
T.3 : Separate
Produced by Ging
T.4 : The Hearse
Produced by Simon On The Moon, Jamie xx & Ging
T.5 : Capo (ft. Sampha)
Produced by Ging
T.6 : Ali
Produced by Simon On The Moon, Matthew Tavares, Ging & Rodaidh McDonald
T.7 : What About Heaven
Produced by Ging
T.8 : Come Back (ft. James Blake)
Produced by Ging & James Blake
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