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Screengrab / YouTube

Boldy James & The Alchemist『The Price of Tea In China』が見せた「不器用な美学」

MARCH 06 2020

Mobb Deep、Nas、Eminemなどを手がけたカリフォルニア出身のベテラン・プロデューサー / ラッパーであるThe Alchemist(アルケミスト)と、デトロイト出身のラッパーBoldy James(ボールディ・ジェイムス)が先月ジョイント・アルバム『The Price of Tea In China』をリリースした。

90年代にデビューし、その世代で最も尊敬されるプロデューサーの一人としてハードなビートを生み出し続けるAlchemist、Freddie Gibbsを思わせるミニマルかつ鋭利なラップ、細かい情景の描写が冴えるリリックを披露するBoldyの二人による作品は、現行のラップ・シーンのメイン・ストリームとは距離感のあるものだ。トラップ・ビートが一般的な「環境」とも言える現在に、二人のベテランはなおモノトーンなスタイルを貫き続け、最新作で同スタイルの最も洗練された域に到達した。

そんな最新プロジェクト『The Prince of Tea In China』でMCを務めたBoldyがNo Jumperによるインタビューに登場。自身らのスタイルへの思い、最新作について語ってくれたので紹介していこうと思う。

俺たちは二人ともマジでクソ頑固なんだ。自分たちのやり方にこだわり続けてる。
デトロイトのみんなはクラブ・シーンを追いかけ続けてる。だから仲間たちや、地元出身の奴らが「ケツがどうとか」「ビッチがどうとか」の流行りの曲を作ることもあるけど、俺はいつも自分のラップについてこう言ってるんだ。「俺は不器用で、ダンスはできないんだ」ってね。

彼らの音楽はクラブで流れるようなヒット・チューンとは言えない。中毒的であることを極端に追い求めているわけでもない上に、おそらく彼らはヒット・チャートを独占することを目標にはしていないだろう。
そうでありながら、彼らが長年ヒップホップ / ラップのリスナーを魅了するのは、同じスタイルを貫き続けたことで手にした、ストリートでのリアルな経験を基にした「余分の一切ない美しさ」がそこにあるからだろう。

俺はゲットーを抜け出していない。それこそが俺のラップが語る内容だ。どれだけ金を手にしても、俺はプロジェクトで生き続ける。永遠にさ。(笑)(Mobb Deep “ Survival of the Fitterst “の引用)”

彼は作品中で声のトーンを張りあげることなく、ドラッグ・ディール、犯罪、殺人といったフッド、ゲットーの状況を語り続ける。その空気感、雰囲気、状況を言葉で紡ぎだし、没入感を生み出している。

“ デトロイトのスラム 沖からドラッグを運び入れ ネタで金を稼ぐ
ショーツには銃が入ってる 血はまるでスポーツ
玄関から飛び出して 馬みたいにまたがる 俺にはフォースがついてるんだ
ポルシェの中でハイになって トランクには死体が詰め込んである – Surf & Turf “

しかし、彼の作品が扱うテーマと、サウンドはごく少数のリスナーにしか刺さらないわけではないだろう。ゲットーで過ごした経験を起点に作品づくりを行う「プロセス・内容」は、プレイボーイ・カルティに代表されるような声を楽器のように用い、同じフレーズを繰り返すことで人気を獲得している、トレンドのラップ・ミュージックの種類とは全く異なるものだが、一方で、ビートに対して最も相性の良い音数、言葉をチョイスし、無駄を削り取った美しさを提示するといった意味では彼の作品は、ラップ・ミュージックにおける普遍的な魅力を提示している。
もちろんゲットーでの経験とそのストーリーは彼の作品において非常に重要な要素であることは間違いないが、以上のようなミニマムな「美しさ」という観点から彼の作品を見ることでさらに多くの人が彼の作品を聴くきっかけ、入り口になってくれることだろう。

「俺は不器用で、ダンスはできないんだ」

The Alchemist、Boldy James、二人のベテランの最新アルバム『The Price of Tea In China』は先月リリースされたばかり。まだチェックしていない方、今まで彼らのようなスタイルのラップを普段聴かない人も是非チェックしてみてほしい。

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