Hypebeast
May 26, 2020
2017年に「Cho Wavy De Gomenne」のヒットで颯爽とシーンに現れ、着実にその存在感を確かなものとしてきたラッパー・JP THE WAVYが2020年4月8日にリリースした初のフルアルバム。全18曲およそ49分に及ぶ今作のタイトルは『LIFE IS WAVY』。m-floのVERBAL、AKLO、MIYACHIといった国内のラッパーやプロデューサーに加えて、アメリカやベトナムからもアーティストらが参加した意欲作。アートワークにはVERDYが手がけたキャラクターが採用されている。
HYPEBEAST
JP THE WAVYの世界には度々“ コーヒー ”が登場する。彼が形容する“コーヒー”はクールでチルな雰囲気の象徴であり、存在である。MIYACHIを客演に迎えた2曲目の「Beverly Hillis(feat. MIYACHI)」ではこう語られる。
“ 早く寝たら朝に起きて景色眺めタバコ火付け
好きな音楽流し吸って吐いてこれが楽しみ ”
– Beverly Hills(feat. MIYACHI)
ビバリーヒルズでの生活を夢見る内容のリリックであるが、コーヒーと共にある今の生活は、たとえビバリーヒルズに居を移しても引き継がれるほど好きな時間なのであろう。
そしてその“ コーヒー ”が最も大きなモチーフとして語られる楽曲が、4曲目の「GOOD PEOPLE GOOD COFFEE」及び5曲目のRemixである。
“ 昼過ぎに起きて飲むコーヒー ”-
GOOD PEOPLE GOOD COFFEE
なんでもない日常の1コマを切り取っただけなのに、実に印象深いラインから始まる楽曲が2度続く。デラックスバージョンかと見紛うような大胆な選曲ではあるが、アルバムを通して聞く上で、この流れに不思議としつこさはない。JP THE WAVYのフックが心地いいために、2曲は1つのまとまりを形成している。
ドラッギーな飲料やアルコールですらない、“ コーヒー ”に形容される世界は、贅沢な時間として立ち現れる。クールなトーンのフロウや、高いファッションセンスにダンスを得意とする新たなスタイルに限らず、JP THE WAVYなりの豊かさの演出は、ヒップホップ界の新たな価値観として刻まれることとなるだろう。
彼は度々自身のことを「ギャル男」と形容する。「ギャル男」というと今の時世では揶揄の対象として用いられる、もしくは世間からのその軽蔑のあまり絶滅したと言っても過言ではない存在だ。
わざわざそんなワードを用いるには彼自身、新時代のキャラクターとしてシーンに登場したことに自覚的であるからだろう。
“ 見た事ない感じ 総合的新生児
そりゃ今までねぇこのタイプ台風みたいな問題児 ” – Neo Gal Wop
ラグジュアリーストリートブランドの店員としても働いていた彼の場合、同じゴールドのチェーンを首から下げていようとステレオタイプ的なそれとは全く違って映る。Instagramからは彼がいかにファッションを楽しんでいるか伺うことができ、ステージやミュージックビデオではクールに踊ってみせる。2020年5月現在、1500万回を超える再生数を誇る「Cho Wavy De Gomenne Remix feat. SALU」は約3年前のミュージックビデオでありながら、彼のスタイルを決定付けた「ネオギャル男代表宣言」でもあったのだ。
前代未聞の疫病による混乱に対して、人類が結束して立ち向かうために、STAY HOMEを楽しむ施策をあらゆるアーティストが行ってきた。アジアから世界を席巻するレーベル・88risingの場合は、TERIYAKI BOYZの楽曲「TOKYO DRIFT」をビートジャックする企画「TOKYO DRIFT FREESTYLE」をYouTube上で公開した。#challenge的にミームとして日本でも広がりを見せ、多くのラッパーが自身のアカウントを通じて披露している。モデルの重盛さと美など、他分野の著名人を巻き込むほどになっていることからもその規模がうかがえるが、この施策の仕掛け人である88risingのYouTubeアカウントから公開されている映像は、いわばオフィシャルのものであり、彼らに認められたことを意味する。そのラインナップは看板アーティストであるRich BrianやHigher Brothers。ベトナム出身のフィメールラッパー・Suboi。日本からはAwich、ANARCHYそしてJP THE WAVYが登場している。
彼のビデオのラストバースをはこうだ。
“ 一体全体俺たちこれからどこまで行っちゃうの?(Let’s go)”
ビデオの最後にはアルバムの告知が流れる。思えば、『LIFE IS WAVY』には宇宙的なモチーフが数多く登場する。#1「OK, COOL(feat. VERBAL)」のミュージックビデオでは、(ラストのオチはあるが)仲間とともに宇宙船からお送りしている。他楽曲においては以下の通り。
“ 宇宙に行こう 太陽に挨拶 ”
– BLIND(feat. Jay Park)
“ 俺稼いでまとめて火星まで行く”
– Blessed
“ 先の道向かう君と 俺ら月の裏まで飛んでくよ ”
– Donut
ここで、今作のジャケットをもう一度見て欲しい。VERDYによる、JP THE WAVYをエイリアン的にデフォルメしたキャラクターがそこには描かれている。宇宙的なモチーフはJP THE WAVY自身にまで施されているのだ。ここで1つの仮定が生まれる。「もしも彼が宇宙人だとしたら…。」
この仮定が正しいとすると、自然と我々がそのスタイルに魅せられることに納得がいく。これまでに指摘したようにファッションセンスやダンス、そして価値観に至るまで彼は新たなスタイルを日本のヒップホップ界に提示し続けている。そして、そのどれもがクールであった。JP THE WAVYは、私たちが知らないところから来て、まだ見ぬ先へと向かっているのだ。本人曰く、その先というのはどうやら世界の果てなんてものではないらしい。
私たちが初めて出会った宇宙人は、(ヒップホップ的なニュアンスで)実にクールであったとここに記録する。
RELATED POSTS
LATEST NEWS
FEATURE
LATEST LYRICS