Album Cover / Space Shower
January 13, 2020
年が明けて2021年1月6日。KID FRESINO(以下フレシノ)の2年ぶりの新アルバム『20,Stop it.』がリリースされた。バンドメンバーとしてライブを共にしてきた、三浦淳悟(bass / ペトロールズ)、 佐藤優介(keyboard)、斎藤拓郎(guitar, keyboard / Yasei Collective)、石若駿(drums / Answer to Remember, millennium parade)、小林うてな(steelpan, keyboard, chorus)と共に楽曲が制作され、プロデュースには彼自身以外に、Seiho、jjj、ロンドンを拠点に活動するobject blueなどが携わった。
客演には、事前にリリースされていた「Cats & Dogs」のカネコアヤノ以外にも、BIM、Shuta Nishida、Otagiri、Campanella、JAGGLA、長谷川白紙など、ジャンルレスに彼が一緒に曲を作りたかったアーティストたちが選ばれた。また、アルバムを締めくくるのは「No Sun」のtoeによるリミックス。フレシノは以前からtoeに楽曲のリミックスをお願いしたかったそうで、今回のアルバムでやっとそれが叶う形となった。
まず取り上げたいのがJAGGLAを迎えた「incident」だ。アルバムがリリースされてまずこの組み合わせに驚いた方も多いのではないだろうか。JAGGLAは大阪出身のラッパーで、現在は孫GONGと共にジャパニーズマゲニーズとしても活動している。全くスタイルの異なるJAGGLAがアルバムに参加していることに最初は驚いたが、実際に聴いてみると、二人の空気まで伝わってくるような情緒的なリリックが、当前のように曲中で通じ合っているのが分かる。この曲はフレシノ自身もアルバムの折返し地点に感じると語るような曲であり、続く「Cats & Dogs (feat. カネコアヤノ)」へと緩やかにムードを繋げている。
「Cats & Dogs」は2020年にシングルとして配信リリースしていた曲であり、シンガーソングライターのカネコアヤノと共に作った曲だ。MVは今はなき“としまえん”にて、自然な雰囲気の中撮影されており、その親しげな間柄も伝わってくる。この曲は個人的にカネコとフレシノ両アーティストのファンである筆者としては思い入れが強く、そのくぐもった前奏が流れるだけで嬉しくなってしまう。リスナーとしては、今までは全くの別ジャンルであると思っていた二人が完全に共存している姿が不思議で、不思議だが自然と体に染み込んでいくようにも感じた。両者が削れることなく世界観を共有していて、幅広いジャンルのリスナーに聴いてほしい1曲だ。実は10曲目「come get me」のリリック中に、カネコの曲の歌詞を盛り込んであることにも気づき胸が熱くなった。ジャンルは違えど温度は似ているように思える二人。またいつか一緒に曲を作って欲しいと期待してしまった。
変化球な客演が魅力を見せる曲としては、11曲目の「youth (feat. 長谷川白紙)」も挙げたい。ストリングスが印象的な、エモーショナルながらもさっぱりとした1曲で、ヴァイオリン、ヴィオラにはEGO-WRAPPIN’や折坂悠太、ジム・オルークなど幅広いアーティストに関わる波多野敦子を迎えた。長谷川白紙はネットを中心に活動するシンガーソングライターで、エレクトロニカやジャズなどのジャンルを取り入れた楽曲と美しいハイトーンヴォイスが国内外で人気だ。今回の曲でも、ミニマルなビートの中で冷たく瑞々しいメロディが直接的な言葉を使わずに情景を感じさせる。長谷川の透き通るようなフックとリズミカルなフレシノのラップがメリハリを生み、気づいたらあっという間に終わってしまう、まさに“若さ”そのもののような曲だ。
今回のアルバムはミニマルなビートづくりと言葉を選び抜くことを徹底しているように感じる。2曲目の「dejavu (feat. BIM, Shuta Nishida)」は先にフレシノがビートを作り、それを西田修大がアレンジするという作り方をしたそうだ。大胆に入れられたギターのノイズが、ふとした瞬間にビートの上で弾け壊れ、新鮮な突っかかりを感じる。BIMのメロディアスなラップは、このアルバムの中でも最も具体的に物語を感じることのできる部分だ。
シンプルなビートに言葉が映える曲として挙げたいのが、4曲目の「Lungs (feat. Otagiri)」。Otagiriは、SOCCERBOYとして活動していたラッパーという枠には完全に収まらない詩人、リリシストである。クリックのような無機質なビートに生楽器の躍動感が加わる。シンプルなトラック上に言葉たちが浮かび上がってくるような印象的な作りだ。噛み砕くのが難しく感じるかもしれないが、私個人としては言葉遊びや音の面白さを愉しめばいいのではないかとも思う。
同じくミニマルなビートといえば、インタールード「j at the edge of the pool 」を挟んだ次の曲「Girl got a cute face (feat. Campanella)」だろう。だがこちらの方がさらに硬質で、乾いた打楽器の音からトライバルな雰囲気も感じられる。こんなパーカッションとベースのみのビートだからこそ、音と言葉の境界線がないフレシノとCampanellaのラップがハマる。まるで「Girl got a cute face」というトピックに対して浮かんだ言葉を無造作に散りばめたようなのに、聴いていてとにかく気持ちいい。そんな風に頭より反射神経で言葉をハメることができるラッパーはこの二人くらいではないかと思う。
デビューした当初から今回の作品まで、新しい挑戦を続けることによってそのスタイルを確固たるものにしてきたフレシノ。前アルバム『Coincidence』にも登場したパートナーFish Zhangによる中国語の語りは、このアルバムの始まりにふさわしい言葉の響きにフォーカスした部分だ。言葉を音として扱うスタイルはさながらパーカッション。ふとした瞬間に頭に入り込んでくる“意味”にハっとさせられる。
Against All Logicの「I Never Dream」に着想を得たという「No Sun」も、耳をすませると様々な楽器の音が重なり、その上にパーカッシヴなラップが乗って初めて全体が浮かび上がる独特な雰囲気の曲だ。乾いたドラムに幻想的なスティールパン、左右に振られた2本のベースが自然界のやさしさと厳しさを感じさせる。同じ「No Sun」でも、アルバムの最後に収録されたtoeによるリミックスは全く別物。ポストロック的なアプローチで作られており、縦横無尽に変化していくtoeらしいサウンドに、これまた変幻自在なフレシノのラップが違和感なく重なる。最後のコーラスはtoeの山嵜によるものであり、ジャンルレスなアルバムの最後にふさわしい締め方に感じた。
新しい試みといえば、シングルカットもされていた「Rondo」でのオートチューンを用いた歌だ。このどこかやさしくて懐かしいようなトラックには、いつものバシバシに決めるラップよりも、今にも飛び立ちそうなほど軽やかなメロディがよく合う。リリースしてから何度聴いたか分からないこの曲は、聴くたびに私の血となり肉となり、その度に好きになっていく不思議な曲だ。MVも曲のイメージをさらにふくらませるような作品となっており、フレシノの周りの人たちがホームビデオのように登場している。どこを取っても心が温まってしまう愛に溢れた曲だ。
このアルバムで自身のスタイルをさらに広げ、それを確固たるものにしたKID FRESINO。他の誰にも真似できない他ジャンルとの融合が実現し、このアルバムにジャンルを持ち出すのは野暮だと感じるほどだ。全く新しいものが出来上がっているのに不思議と受け入れやすい。何度も再生してしまう。こんな作品に新年早々出会えるなんて、2021年にはつい期待してしまいそうだ。
Writer : Minori
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