DJBooth
August 14, 2020
2011年に結成以来、輝かしい活躍を残してきたニューヨークのコレクティブ Pro Era に所属するラッパー Nyck Caution(ニック・コーション)。ブルックリン・Mill Basinで生まれ育ったラッパーは Pro Era、そして Beast Coast の一員としての活動だけでなく、ソロ活動に力を注いできた。
2013年、自身初のミックステープ『The Pursuit Vol. 1』を、2016年にはデビュー・アルバム『Disguise the Limit』をリリースするなど、着実にその歩みを進めてきた。そんな彼が先日リリースしたのがEP『Open Flame』だ。
「Demons Don’t Take Off From Work」の儚さを感じさせるストリングで幕を開ける一作は、ダークで不穏さを感じさせる一面と、ゴールデン・エイジを思わせるBoom-Bapのテイストを兼ね備えた、まさに「NYらしさ」を内包している。前作『Disguise the Limit』をリリースしてから約4年。最愛の父を亡くすという出来事を経た Nyck が放つ言葉は力強い。
“ 俺は終わりがいつ来るかわからないからこそ、自分のやっていること全てに全力を尽くしたいんだ。 何も無駄にはしたくない。例えゲストとして参加するだけでも、常に全力を尽くすんだ。何があってもね。”
今回はEP『Open Flame』について、父を亡くした経験から得た学びと決意、家族、仲間と自分の作品の関係性、まさに制作中だと言うネクスト・アルバムについて DJBooth によるインタビューで語ってくれたので、抜粋し、紹介していこうと思う。
DJBooth : あなたがキャリアを通じて感謝の意を送り続けてきたニューヨークから始めよう。特に『Open Flame』の「Margot Robbie」においてはその想いは顕著だったね。ニューヨーク、そして*Mill Basinはこのプロジェクトにどんな影響を与えてる?(*Mill Basin = NY・ブルックリンの南東部に位置する地域。Nyck の出身)
Nyck Caution : このEP全ての主な影響がニューヨークとは言い切れないけど、「Margot Robbie」に関しては、間違いなくそうだ。俺の名前である「Nyck」の由来を聞かれることが多いんだけど、それはまさに「New York City Kid」という言葉から来ているんだ。 今までそれを曲の中で口にしたことがなかったから、「Margot Robbie」を書くとき、「New York City Kid」をチャント(応援歌)として盛り込んだ作品を作りたいと思ってね。それが曲のフックになり、ヴァース全体に盛り込まれている。ニューヨークについては何度も言葉にし始めたね。
ー2016年の『Disguise the Limit』から2020年の『Open Flame』までの間で得た人間として最も重要な学びは何?
『Disguise the Limit』をリリースしたのは、ちょうど父親が亡くなった直後だったんだ。彼もアルバムを聴いてくれていたんだけどさ。でも、その時にはまだ実感が湧かなくて。アルバムがリリースされた後、その事実に直面することになって。それから4年で、俺の音楽に対する考え方は変わった。もっとセリフ(言葉)を無駄にしない曲をもっと作りたくなったんだ。自分の伝えようとしていることを、上手く伝えられるようになってきていると感じていたし、さらに幅広いヴォーカルレンジに挑戦してみたね。
「Demons Don’t Take Off From Work」は曲の終盤に向かって、ハーモニーを少し入れてるよ。「Slipping Away」でも歌を取り入れているし、「More Than I Deserve」では、また違うヴォーカルを使ってる。ビートを聴いた時、どう反応するか。そこで自分自身にリミットをかけないんだ。
ー大事な人を亡くしたという出来事は、制作にどんなインパクトを与えた?私は言葉を無駄にしないということは、時間を無駄にしないことにも繋がるのだけど。
そう考えたことはなかった。でも、そうだね。俺は超憂鬱になるのが嫌いなんだ。俺は自分の想いを話すよりも音楽に注ぎ込むのが好きなんだよ。家族と話すよりもね。俺は大事な人たちを失ってきた。わかるでしょ?Steez(Capital Steez)、そして俺の父親。もっと若い頃にも、仲の良い友人を失ってきた。セリフを無駄にしなければ、そういう事実も音楽と共に生き続ける。あなたは時間を無駄にしたくないんだよね。けど、俺は終わりがいつ来るかわからないからこそ、自分のやっていること全てに全力を尽くしたいんだ。
俺はとにかく中途半端なことをしたくない。このEPも「アルバムを準備してる。だからそれまでに使い捨ての曲を集めてリリースするよ。そうしたら忙しそうに見えるでしょ」なんて風にすることもできた。俺は同時にEPにも取り組んだんだ!それも捨て曲じゃなくてね。何も無駄にはしたくない。例えゲストとして参加するだけでも、常に全力を尽くすんだ。何があってもね。
ーあなたの作品はどのくらい家族に向けられているの?選んだ家族と血の繋がった家族含む。
家族は心の中に常にあるよ。選んだ家族、血の繋がった家族、そしてTrevor。彼は一緒にレコーディングを行う仲間だけど、彼のことを家族だと思ってる。家族のことは常に考えてる。けど、振り返って「あいつらのために俺は曲をやってる」と言う前に、やりたいことがまだあるんだ。ドアから自分の足を完全に抜け出したいんだ。俺は多くの楽曲で個人的なことを歌ってる。自分勝手に聞こえるかもしれないけど、俺は自分のために音楽をやってるんだ。セラピーの一種としてね。自分の言葉をまとめ、それを吐き出すのに役立つし、曲を聴き返すと、まるで自分に語りかけているようなんだ。家族は俺の心の中にある。けど、俺にはもう少しやりたいことがある。
ーわがままになることも良いことだよ。自分自身のファンになるべきさ。
その通りだね!俺は友達を家族だと思ってるし、彼らがアドバイスをくれるかもしれない。もちろん、周りの人が言ってくれることは全て心して受け止めるし。けど、自分の直感で進まないといけない時もある。多くの人は「わがまま」を悪い言葉として扱うけど、場合によっては、「最高の自分」になるためには、少しわがまま(自分勝手)でいるべきだと思うんだよ。そうすれば、真っ直ぐ前を向ける。
ー2016年、Baby’s All Right であなたが初めてヘッドライナーとしてショーを披露していたのを覚えているよ。あの夜のこと、覚えてる?
あの日の全てを覚えてるよ!みんなで誰でも入れる地域のコートでバスケットボールをしたな。トーナメントを開催して、シャツを配ってたよ。その後にBaby’sに向かったんだ。オープニングアクトとしてショーに出たいと頼んできた奴らもいたね。結局は地元の知り合いの二人のアーティストにお願いしたんだけど。あの日は知り合いみんなが来てくれていた。音楽に関して言えば、あの日は今までにないほどの愛を感じたよ。忘れられないほどにね。ここが居場所だと思った。みんなが集まれるときに、バスケの試合ができること、それこそが俺がずっとやりたかったことだし、求めていたことだ。ショーの後は、箱を出てみんなとブラついてさ。
ー次のアルバムについて聞かせてくれる?
次の作品は父を亡くしてからの俺の人生そのもの。何曲かはその出来事に直接的に触れているし、死に向き合い、それを乗り越えようとした人にとっては、きっと良いアルバムになると思うよ。数曲では弱い姿も見せているし。ハードな一面を見せる曲もある。俺の父親は俺の音楽のビッグなサポーターだった。アルバム中では悲観に暮れることもあるけど、もし彼が生きていたら「メソメソしてるんじゃない。仕事に戻れ」と言われただろうからさ。アルバム全体でその境地に辿り着いたことを表してるんだ。
Writer : Shinya Yamazaki
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