J.Cole Lewis Street The Climb

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J.Cole が新曲「The Climb Back」をリリース | リリックに込められた想いと、彼の今の心境を考える

July 24, 2020

数週間前、一連の#BlackLivesMatter のムーブメントに対し、声を上げ続けてきた Noname に向けた楽曲「Snow on the Bluff」で物議を醸したJ.Cole。彼の持つ正直な想いが、落ち着いたトーンの上で綴られた一曲はある種、彼の突発的な衝動によってリリースされた作品だったと予想できるわけだが、7/22に配信された2曲組の新作『Lewis Street』は、随分前からアナウンスし続けているネクスト・アルバム『The Fall Off』の先行シングルとして、彼の6枚目のアルバムの方向性を指し示す作品として捉えても間違いないだろう。

J.COLE

『Lewis Street』に収録された「The Climb Back」「Lion King on Ice」の2曲のトーンは、ラスト・アルバム(『KOD』)で「瞑想」を覚えた彼の、怒りでもない、悲しみでもない「落ち着き」に包まれている。前作のように、ドラッグに明け暮れるエドワードのオルター・エゴが現れることも当然ないわけだ。勿論、今作においてもライミング、言葉遊び、フロウは言わずもがな一流だが、この作品には『2014 Forest Hills Drive』で見せた鬼気迫る迫力や、反省を重ねポジティブな答えを導き出すコールの姿はない。しかし、このフィーリングこそが彼の今の心境なのだ。彼は今、耐えきれないほど「辛い現実」と、瞑想による「心の平穏」を行き来している。

彼が「The Climb Back」で語るテーマの中心は、理不尽な現実と彼の苦悩である。フッドに住む仲間たち、黒人たちの多くが命を落し、数少ない信頼できる仲間も欲に溺れてゆく。ラッパーとして多くの言葉を綴ろうとも、簡単に変わらないシステムを目の前にし、誰からも理解されない苦しみに苛まれたコールは、誰かに頼るのではなく、自分自身で怒りと悲しみをその胸にしまい、再び落ち着いたトーンを取り戻す。

“ みんなには理解してもらえないかもな
お前らの目には「クラウト(名声)」が見えても
リアルな俺は見えやしない
俺がもし狂ってたとしても、お前らじゃこの傷は癒せない
だから俺は自分で自分を癒してるんだ。自分の中の神と調和しながらね ”

彼の今の立ち位置とマインドは、作品のジャケット、リリックにも現れている。作品のジャケットには彼の地元ノース・カロライナに実在する「Lewis Street」で吠え合う二匹の犬と、それを傍観する一人の男が映し出されているが、リリック中で「犬」というワードは彼の「仲間・同業者」と思われる対象を表すために用いられている。あくまで個人的な解釈だが、コールは今ジャケットの「傍観する男」そのものなのかもしれない。誰かと争うこともなく(勿論、自分や家族を攻撃されようものなら彼は襲い掛かるが)、誰かに癒されようともせず、少しだけ遠くから状況を傍観し、現実をラップにし続ける。このマインドと立ち位置こそが、コールの「今」、そして、6枚目のアルバム『The Fall Off』の方向性を表す指標なのではないだろうか。

「The Climb Back」の和訳・解釈を下部に記載したので、是非併せてチェックして欲しい。

[Intro]
Are you doin’ this work to facilitate growth or to become famous?
お前は成長したくてこの仕事をやってるのか?それとも有名人になりたいのか?

Which is more important?
どっちが大事だと思う?

Getting or letting go?
手に入れるか、手放すか?

You can do anything, anything you can do (You can do anything)
You can do anything, anything you can do (You can do anything)
お前は何だってできるんだ、お前なら何だってできる

 

 

[Chorus]
Everything come back around full circle
物事は全て巡ってる

Why do lies sound pleasant but the truth hurtful?
なぜ嘘ほど耳障りが良く、真実は痛々しいんだ?

Everybody gotta cry once in a while
誰もが時には涙を流すべきさ

But how long will it take ‘fore you smile?
だけど君の笑顔が帰ってくるまで、あとどれくらいかかる?

This is that come back to life shit
「ライフ」を取り戻す過程をこの曲に綴る

My niggas pick me up and we gon’ light the city up as if the sun had the night shift
仲間たちが俺を迎えにきた。太陽が落ちても俺たちがこの街を照らすのさ

And paint the town red for my nigga found dead too soon (Bitch, I’m back out-)
早すぎる死を迎えた仲間のために、この街を赤に染めるのさ

 


[Verse 1]
Yeah
エイ

To the left of that decimal, I need seven figures to play the joint
ジョイントを吸うなら小数点の左側に、7つ0がつくくらいのが必要さ
(コールは質の良いものしか吸わない。そもそも一本数万ドルするジョイントは中々ないはずなので、間接的に葉っぱをやらないことを示唆しているのかもしれない)

Turn up your decibels, peep how I decimate a joint
デシベル(音量)を上げな、俺がどんな風にこのジョイント(ビート・曲)を殺めるか見とけ
(peep = 覗き見る / 携帯がピーと鳴る。二つの意味でかけている)

Check out my projects like them workers that Section 8 appoints
俺のプロジェクトをチェックしな、まるで「Section 8」に指定された労働者のよう
(プロジェクトを2つの意味でかけている。前半は作品を意味。後半部分は低所得地域を意味。「Section 8」は低所得者向けのアメリカの住宅サポートプログラム)

And you’ll see how I flipped, like exclamation points
俺が音をどう調理するか見ときな、まるでビックリマークみたいだ
(flip = サンプルから音を抜き出して別のフレーズを作る工程。flip は「驚いてひっくり返る」という意味もあるので、そのあとのラインの意味も繋がる)

My niggas shoot first as if they never played the point, more two guards
俺の仲間が球(弾)を放った。まるで一度も「ポイント」や、「ガード」のポジションやったことがない奴のように
(銃撃と、バスケットボールのシュートをかけている。「ポイント」はポイント・ガード、「ガード」はシューティング・ガード。それぞれバスケットボールのポジション名)

Enough straps to fill four U-Hauls
U-Haul(トラック)が4台いっぱいになるくらいのマシンガンを積めこんで

More death than World War II caused
ここ(フッド)じゃ第二次世界大戦より人が死んでるんだ

Around these parts we pour the brown just to drown these thoughts
そんな場所に生きる俺たちは、心を鎮めるために酒を注いでる

Of black corpses in county morgues, Lord, those images hauntin’
遺体安置所に眠る黒人の身体を思いながら。「神よ、そのイメージが頭から離れないんです」

I ain’t been sleep yet, it’s ten in the mornin’
ここ最近眠れてないんだ。もう朝の10時だってさ

I’m sendin’ a warnin’, a problem with me is like the BET Hip-Hop Awards
俺は自分自身に問題を提起し、注意し続けてる。BET Hip-Hop Awards のようにさ
(コールは昨年BET Awards で3部門を受賞しています)

I’m startin’ to see you niggas don’t want it
わかり始めたんだ。そんな賞をみんな必要としていないって
(ドレイクが昨年のグラミー賞で「ファンがいれば賞は必要ない」という旨のスピーチをしたように)

I’m sick of this flauntin’, from niggas I know for sho’ ain’t got mo’ dough than Cole
もう黒人たちが物事を誇示するのにうんざりしてるんだ。俺より明らかに金を持ってないのにさ

Trash rappers, ass backwards, tryna go toe to toe
ゴミみたいなラッパーたち、デタラメなんだよ。肩を並べようと必死になってさ

We laugh at ya, staff strapped up on top the totem pole, to blast at ya
お前らを見て俺たちは笑ってるよ。トーテム・ポールのおまけ野郎。お前を馬鹿にしてんだ

Bass masters, look how they tote a pole
ベースマスター、あいつらの銃の構え方見てみろよ

Gotta know the ropes and the protocol
ロープ(縄張り)とプロトコル(協定)はきちんと知っておけよ

Or they gon’ for sho blow your clothes half off like a promo code
さもなければ、お前もプロモ・コードみたいに半分になっちまうぞ
(blow someone clothes off = 銃で撃ち殺される。という熟語と、clothes half off = 半額という熟語をかけている。プロモ・コードはオンラインショッピングに使うクーポンのこと)

Made a lil’ tune called “Foldin Clothes,” and a nigga still ain’t known to fold under pressure
「Folding Clothes」なんて曲も作ったけど、仲間たちはプレッシャーに晒されても屈し(fold)ない

Well you know what Cole do, make a diamond,
なあコールが何をするかわかるだろ。ダイアモンドを生み出すんだ
(Cole はCoal = 石炭というワードにも聞こえます。その後のダイアモンドと「鉱石」という共通点でかけている)

They just rhymin’, Me, I’m quotin’ gold
あいつらはただライムしてるだけ、けど俺はゴールドを示す

One phone call get you canceled like a homophobe
一本の電話でキャンセルされちまうなんてな。まるで同性愛嫌悪みたいだ

In this PC culture, address me as the G.O.A.T.
この頃の「PC(ポリコレ)カルチャー」の中ではさ。俺もG.O.A.Tだなんて言われたりもする

Like they call Chief Keef Sosa, in my sectional like a fuckin’ three piece sofa
あいつらが「Chief Keef Sosa」と呼ぶようにね。「3つセットのソファー」くらいの範囲内なら
(シカゴのレジェンドChief Keef のこと。Sosa という呼び名は映画『Scarface』の登場人物Alejandro Sosaから)

I’m known as the chosen one
俺も「選ばれし者」だなんて思われてる

Another dead body lay frozen, that’s how it go sometimes
また一人死体が氷漬けに、時を置いて世の定めは襲ってくる

When niggas weighin’ coke and not the pro’s and cons
黒人はコカインを測ってる、善悪を測ってるわけじゃない

Well I ain’t with that sleepin’ underground like a gopher, so I go for mines
ネズミのように地下でなんか寝られねえ、だから俺は自分の力で手に入れるのさ

 

 

[Chorus]
Everything come back around full circle
物事は全て巡ってる

Why do lies sound pleasant but the truth hurtful?
なぜ嘘ほど耳障りが良く、真実は痛々しいんだ?

Everybody gotta cry once in a while
誰もが時には涙を流すべきさ

But how long will it take ‘fore you smile?
だけど君の笑顔が帰ってくるまで、あとどれくらいかかる?

This is that come back to life shit
「ライフ」を取り戻す過程をこの曲に綴る

My niggas pick me up and we gon’ light the city up as if the sun had the night shift
仲間たちが俺を迎えにきた。太陽が落ちても俺たちがこの街を照らすのさ

And paint the town red for my nigga found dead too soon (Bitch, I’m back out-)
早すぎる死を迎えた仲間のために、この街を赤に染めるのさ

Now I know why they call it blue moon (Yeah)
なんでみんな「ブルー・ムーン」なんて呼ぶのか、その理由がわかったよ
(鎮痛剤の一種オキシコドンはスラングで「ブルー・ムーン」とも呼ばれる。コールはドラッグを使う理由が「悲しみ(ブルー)に包まれているから」だと分かった)

 

 

[Verse 2]
Survival at all costs, everyday niggas get logged off
必死に生き抜くんだ、毎日どこかの黒人がログオフする世の中を

Bodies get hauled off
そうして遺体は運び出されるのさ

Passin’ a funeral procession while holdin’ my breath in the car I thought
葬儀の列が横切り、俺は車の中で息を止めながら考えてた

At times, it be feelin’ the devil be winnin’ but do that mean God lost?
時には、悪魔が勝利しているように感じる時もある。でもそれって神様が負けたこととイコールなのか?

Just got off the phone with my nigga, he back in the kennel, my dog lost
今仲間と電話で話してたとこさ、あいつはまた犬小屋に帰ってゆく。今じゃ、俺の飼い犬は行方不明さ

I brought him ‘round close to me before but he
昔は俺はあいつを連れ回してたけど

Became addicted to clout and all the hoes we’d meet
あいつは名声と、出会ったビッチたちにすっかり夢中になってしまった

I slowly peeped jealousy on his breath, whenever he spoke to me
あいつの息遣いに俺へのジェラスを少しずつ感じるようになった、どんな話をしていても、それを感じた
(Dreamville の最初期メンバーOmen のことでしょうか。彼のデビュー・アルバム『Elephant Eyes』にはコールという大きな存在が近くにいることの葛藤を語っています)

Like on the low, he feelin’ like in my shoes is where he supposed to be
それもひっそりとさ。あいつは俺の靴の中こそが居場所だと感じてたんだろう
(スターになっていくコールについていくことで、自分の欲求を満たしていた)

I tried to ignore the signs, but there in the back of my mind, it felt
俺はその兆候を見て見ぬ振りしようと思ってた。けど、心の底では感じてたんだ

Like lettin’ a nigga come sleep on your couch and he eatin’ up all yo’ groceries
「まるでソファーに寝かしておいた仲間が、家の食糧を食い散らかす
みたいだ」ってさ

My nigga repeated this quote to me, I felt its potency
仲間が俺にいつもそう言ってきたよ、確かにその通りかもな

Said, “Most of these niggas gon’ hang themselves, just give ‘em the rope and see”
「大体のやつは、縄を与えて放っておけば、首を自分で吊っちまう」ってさ

Shit, I heeded that, and what got showed to me
クソ、俺も注意してたつもりだった、でも俺の目に入ったのは

Was screamin’ that, some niggas you gotta leave ‘em back
まさに「叫び」だった。何人かは戻ってきたけど

Unfortunately we seen the trap
残念なことに、俺たちが目にしてきたのはトラップだ

Niggas be on that demon clock resultantly
結果として、黒人たちは悪魔の操る時計の上で踊らされてる

They fiend to clap as often as the Genius app misquotin’ me, uh
悪魔たちの必死な拍手は、まるでGenius が俺のリリックを勘違いするくらいよく起こるのさ
(音楽業界、ラップ・ゲームの中にいる「悪魔」のこと。黒人たちを搾取する存在のことでしょう)

Meanwhile, I see that yo’ diamonds is glistenin’
そんな想いを抱え、俺はお前のダイアモンドが輝くのをみてる

I’m glad that you shinin’ but need I remind you my niggas is dimin’ and nickelin’?
お前が輝いてて嬉しいよ。でも、今も仲間たちが貧しい生活を送ってる現実を、いちいち思い出させないといけないか?

Scrapin’ up whatever coin they can find, the pettiest crime they committin’ it
探せるだけの小銭をかき集め、小さな犯罪を犯す

Just to get by for a limited time, the steepest of mountains they tryna climb
限られた時間の中で辿り着くのさ、みんなが登ろうと必死になってる過酷な山々にさ

I’m here tryna find the derivative
俺はここで、みんなと違う道を歩もうとしてる

You niggas don’t feel me, you see the clout
みんなには理解してもらえないかもな。お前らの目には「クラウト(名声)」が見えても

You don’t see the real me
リアルな俺は見えやしない

If I was sick, you niggas wouldn’t heal me
俺がもし狂ってたとしても、お前らじゃこの傷は癒せない

That’s why I’m healin’ myself, gettin’ in tune with my God
だから俺は自分で自分を癒してるんだ。自分の中の神と調和しながらね

Slowly revealin’ myself, buildin’ my wealth
少しづつ自分を思いを明かし、健康を築き上げる

A nigga touch mine, I’ma kill ‘em myself, trust me
俺のモノに触れるやつがいたら、俺の手で殺してやる。俺は本気だよ

 

 

[Chorus]
Everything come back around full circle
物事は全て巡ってる

Why do lies sound pleasant but the truth hurtful?
なぜ嘘ほど耳障りが良く、真実は痛々しいんだ?

Everybody gotta cry once in a while
誰もが時には涙を流すべきさ

But how long will it take ‘fore you smile?
だけど君の笑顔が帰ってくるまで、あとどれくらいかかる?

This is that come back to life shit
「ライフ」を取り戻す過程をこの曲に綴る

My niggas pick me up and we gon’ light the city up as if the sun had the night shift
仲間たちが俺を迎えにきた。太陽が落ちても俺たちがこの街を照らすのさ

And paint the town red for my nigga found dead too soon (Bitch, I’m back out-)
早すぎる死を迎えた仲間のために、この街を赤に染めるのさ

Now I know why they call it blue moon (Yeah)
なんでみんな「ブルー・ムーン」なんて呼ぶのか、その理由がわかったよ

 

 

[Outro]
Bitch, I’m back outside, nigga
ビッチ、外に帰ってきたよ

I’m back outside
I’m back outside
俺が外に帰ってきたぞ

Bitch, I’m back outside
ビッチ、俺が戻ったって言ってんだ

Everybody mentions suicide prevention
誰もが自殺防止を語ってる

Man, they even made a hotline
なぁ、ホットラインまで作ったんだってな

To call up when there’s tension
心が張り詰めた時にかける電話だってさ

But I got a question
でも一つ疑問があるんだ

What about a fuckin’ homicide?
「殺人」はどう対処すればいい?

Need a number for my niggas to call
俺の仲間にも「電話番号」(助け)が必要なんだ

Whenever there’s a urge to get triggers involved
引き金を引く衝動が起こるたびに

Need a number for my niggas to call
電話番号が必要だよな

Whenever there’s a urge to get triggers involved
引き金を引く衝動が起こるたびにさ…

Credit

Writer : Shinya Yamazaki

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