donaldgloverpresents
MARCH 21 2020
かつてはコメディアン、現在はアーティスト、アクターと多方で活躍するChildish Gambino(チャイルディッシュ・ガンビーノ)こと、Donald Glover(ドナルド・グローヴァー)が二つの名義それぞれで『3.15.20』と題された同名・同内容のアルバムをリリースした。(Donald Glover Presents名義では1曲・58分構成の作品になっている)
アルバムのリリースまでの経緯を振り返ろう。最近では “ This Is America ” のMV、ヘッドライナーとして出演したコーチェラ・フェスティバルのパフォーマンス、TVシリーズ『ATLANTA』の評価・人気も話題の彼。そんな彼とクリエイティブ・チーム< Rolalty >が日本時間3月15日の夕方ごろ、サプライズ的に公開したのが、ウェブサイト「DonaldGloverPresents.com」。
Donald Glover (Childish Gambino)、「Donald Glover Presents」なるウェブサイトを公開。ニューアルバム、もしくは新たな映像作品の告知でしょうか。https://t.co/V0kvHB1FIZ pic.twitter.com/XEeuSPqpjW
— SUBLYRICS (@thesublyrics) March 15, 2020
そんな謎のウェブサイトが公開されてから、約1時間後、突如ライブ配信されたのが、今作『3.15.20』。Ariana Grande, 21 Savageと思われるアーティストも参加した12曲構成のこの作品は、約24時間ウェブサイト上でループされ続けるという新しい形で配信された。同時に「COVER」と記されたアルバム・カヴァーと思しき横長の画像も公開されており、こちらには燃え盛る建物から人が飛び降りる姿、人で埋め尽くされているストリート、その中で自撮りをする大勢の人々など、” This Is America “のコンセプトにも近い、「暴動」を彷彿とするイメージが提示されていた。
Childish Gambinoの待望の新作が現在、ウェブサイト上でライブ配信中。すでに21 Savage、Ariana Grandeの参加が確認されている模様。
「暴動」を彷彿とさせるアルバム・カバーに加え、ウェブサイト下部には謎のテキストボックスも..🤔https://t.co/6YE1jYAeNj pic.twitter.com/ZiIILc3xYZ
— SUBLYRICS (@thesublyrics) March 15, 2020
配信が終了した後、ウェブサイト上ではカウントダウンが開始。このカウントダウンこそが今回ストリーミング・サービスなどで配信された『3.15.20』のリリースを予告するものだったわけだ。
そんな『3.15.20』のリリースにはもう一つサプライズがあった。それは、カウントダウン終了時にDonald Glover が記した「手紙」がウェブサイト上で公開されたことだ。(現在は削除されている。)
Childish Gambino(Donald Glover)、そして音楽作品に紐づけられた「手紙」と聞いて思い出すのは、彼が2013年にリリースしたスタジオ・アルバム『Because the Internet』だろう。彼は当時、アルバムのリリースを前に*「自身の将来への不安」を記した手紙 をインスタグラムに投稿していた。その関連はともかく、彼が以下のような「手紙」を公開することは過去にもあったわけだ。(以下和訳)
(donaldgloverpresents)
” 友人の勧めで「神託(神からの言葉)」に出会ったんだ。その言葉は俺を清め、3つのことを教えてくれた。
・誰かが死ぬだろう
・私の頭上には星がある
・神のそばにいなさいその時、誰かが死んだ。そして、俺の視界が開けたんだ。けど、触れることはできない。自分の中で感じるんだ。
神託にまた出会った。今度は違う形でだ。その言葉は俺にこう尋ねてきた。「あなたは人々がいつまで求めると思う?」
「彼らが必要とする限り?」
「彼らは永遠に待ってくれるわけじゃない」
ランチを終えたダイニング・ルームで、年長の兄弟が俺にこう尋ねた、「お前は何を探しているんだ?」と。俺が誰かのために作られた山を見つめていたからだ。
俺は兄弟にこう言った。「夢だよ。プリンスに「俺の父さんに合わせてくれ」と頼んだんだ。そしたら、プリンスが「勿論だ」と答えてくれる夢さ。」
続けて、こう言った「その夢では、ストリートで人々が叫び、それぞれを傷つけ合っているんだ。そして俺は” 安全な場所 “に避難するための秘密の方法を知っていた。けど、思い出せないんだ。それがどこで、なぜそこなのか。」
恋人にも夢の話をした。その夢では俺の父さんが生まれてもいない、俺たちの子どもを抱きかかえていた。負けると分かっている戦いに備えて、地下に隠れていた時のことだ。そして俺は啜り泣きながら目覚めた。深い恥じらいと、父親のいた場所に戻りたい思いに襲われた。
しかしそんな時、一つの星、君の笑顔の色が俺の額に輝いた。俺はクローゼットに戻り、汚い服と時計の山に埋もれた。母さんが俺に「読みあげて」と頼んできていたけど、俺は絶対にそれをしないことを理解していた。
このクローゼットには俺の恥じらいや、自分の最も醜い部分を愛することへの拒否感を押し込んである。そのクローゼットには無意識にも、真実によって是正することを許し、その真実を形作り、俺自身に告げる。
“ 最初の本 “で、俺は君に伝えるだろう。君に曲を書き、君に歌う。俺たちのために兄弟、そして姉妹として君に送るんだ。俺たちのイメージの中だけでなく、永遠を色付けられた無限の大空の中でね。 – D ”
『Because the Internet』は、アルバムを構成する曲と曲の間に、脚本、そしてコンセプト・ムービーが織り込まれた画期的なコンセプト・アルバムだった。この「手紙」はその脚本と内容は違えど、似た形の文章である。(彼自身が脚本を書いたので当然ではあるが)
【関連記事 : 【ストーリー全訳・全曲和訳】Because The Internet – Childish Gambino】
彼はこの「手紙」の中で、「神からの言葉」に出会ったこと。その言葉が自分の視界を開いたこと。そして自分が見た「夢」、それを身近な兄弟・恋人に語ったことを記している。
彼が見た夢の内容は非常に印象的だ。
・プリンス(アーティストのプリンスのことだろうか)に父親に会いたいと願う。
・夢の中のストリートでは人々が叫び、それぞれを傷つけ合っている。そしてDonald はそこから避難する方法、場所を知っている。
・生まれていない恋人との子どもを父親が抱きかかえている
終始、父親など身近な存在について語った彼だが、上記の内容から予想するに、彼の父親は亡くなってしまっているのだろうか。『Because the Internet』の脚本に、自身に冷たかった父親が亡くなり、葬儀に向かう描写が数シーンに渡ってあることを考えれば、彼にとって「父親」という存在が、重要であることは予想できる。
「ストリートでは人々が叫び、それぞれを傷つけ合っている〜」というのは、” This Is America “や、先日公開されたウェブサイト上でのアルバム・カヴァーとのコンセプトとも共通するだろう。そこから安全な場所に「避難する」と表現するくらいなのだから、彼の夢の世界は非常に危険なのだろう。
未だ、この「手紙」の意味することはハッキリしていないが、作品との何かしらの関連性があることは間違いないだろう。
昨今、Donald Glover(Childish Gambino)を始め、Frank Ocean, Solangeなど音楽作品と同時に脚本やコンセプト・ムービーをリリースするなど、従来の「アルバム」というフォーマットに囚われない流れが生まれている。アクターとしての一面を持ち、クリエイティブ・チームを抱える彼だからこそ、2013年時点からその表現を行なってきたわけだが、今作も同じようにアルバムが脚本(手紙など)を、脚本がアルバムを、それぞれがそれぞれを補完し合うような作品になるのかもしれない。
またストリーミング・サービスにてChildish Gambino & Donald Glover Presents の2つの名義から同作品をリリースした(Childish Gambino名義では12曲構成、Donald Glover Presents名義では1曲・58分構成の作品になっている)ことには、ある種、彼の持つ2つのアイデンティティを示す意図があるのかもしれないと考えを巡らせてしまうばかりだ。
未だ全貌が明らかになっていないこちらの新プロジェクトだが、今後の彼の動きに注目したい。そして何より、最新アルバムを思う存分楽しみたい。
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