INSOMNIAC
MARCH 21 2020
ヒップホップは今、大きな成長を垂直方向に見せるだけでなく、大きな横への拡がりを見せている。NY・フラットブッシュ生まれ、メリーランド州バルティモア育ちのJPEGMAFIA(ジェイペグマフィア)はまさにその最縁の位置にいるラッパー / プロデューサーと言えるかもしれない。
トラップ・ビートをベースにしながらも、実験的で歪んだような複雑なサウンドを用いる彼の作品は、特にそのサウンド面から大きな注目を集めてきた。しかし、彼の作品において注目すべき点はサウンド面だけではない。
ペギー(JPEGMAGIA)はシュールかつユーモアのある形で、ポリティカルな問題を指摘する。従来のラップ・ミュージックとはサウンド面においても、リリック / ラップにおける表現の方法においても異なるものだ。
そんな彼がTalib Kweliがオーガナイズする番組「Party People」に出演。まさにソング・ライティングについて語ってくれたので紹介していこうと思う。
“ 俺にとってIce Cubeは「一つ上のレベル」でレイシズムと戦った人物だ。俺はPublic Enemyの『Fear of Black Planet』なんかも好きだけど、彼らは知識や歴史から順序立ててレイシズムの問題に取り組んでいた。
けどIce Cubeは、日常を描写することでレイシズムに取り組んだんだ。一つ上のレベルだよ。誰もやっていなかった。”
元米空軍という経歴を持つアーティストはこれまで3枚のスタジオ・アルバムをリリース。2018年にリリースした『Veteran』でヒットを納めた。そんんなセカンド・アルバムでも彼はIce Cubeのように「説教臭くない」方法でメッセージを届けている。
“ 俺はあまり本も読まないし、知識もない。けど身の回りで何が起こっているかは理解していた。彼はそれを扱って、世の中にアピールすることが可能だった。誰もが常に感じていたけど、表現する方法がわからなかったんだ。「マジかよ!どうなってんだ!」と思ったね。
『AmeriKKKa’s Most Wanted』を1993年に聴いた時だったよ。というのも俺はリリースされた時は2、3歳だったからね。10歳か11歳に再び聴いて衝撃が走ったよ。Ice Cube は俺にだってレイシズムのようなトピックを説教臭くならずに伝えられることを教えてくれた。ドラッグ・ディールと同じように社会の問題も伝えてもいいんだとね。
彼は本当に大きな影響だった。なぜなら彼こそが俺に「ラップをしたい」と思わせたから。俺はただ音楽をプロデュースしていただけだった。自分がラップをできると思っていなかったから。”
彼にとっての音楽のスタートはラップではなく、ビートメイクから始まっている。「自身に知識がないから」という理由で、いわゆるコンシャス・ラップのような社会問題を取り扱うラップをすることに躊躇していた彼の気持ちを変えたのは、Ice Cubeが日常を映し出すことで社会問題を相対的に浮き彫りをする表現に衝撃を受けたからだという。
一聴するだけでは、彼の作品が Ice Cube のようなギャングスタ・ラップから影響を受けていることはわからないかもしれないが、Ice Cube という存在がペギーの作品の軸になっていることは間違いなさそうだ。そして、彼はスタイルをそのまま踏襲するのではなく、Ice Cube による表現方法の軸・枠組みを吸収し、日常から生まれる皮肉、時には挑発的なメッセージを彼オリジナルの形で表現している。
「ラップの美しさは「Craft – 物作り」によって生まれることだ」
そう、彼がインタビュー中で語るように、ヒップホップ / ラップ・ミュージックは過去に作られてきたものを踏襲 / リスペクトしながら、「新たなものを生み出す」ことに美しさがある。Ice Cubeがいかにヒップホップの門戸を開いたかがわかる、そして一聴するだけはわからないような、JPEGMAFIAのラップを始めたきっかけ、そして音楽制作の軸となるエピソードであった。
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