Prince Williams/Wireimage
FEBRUARY 29 2020
ドリル・ミュージック発祥の地、イリノイ州シカゴで生まれ育ったラッパーG Herbo(G・ハーボ)がニュープロジェクト『PTSD』をドロップした。
過去の作品でシカゴという地域の危険をリアルに伝えていたこと、そして彼の生い立ちを考えると、彼が新作のタイトルを「PTSD – 心的外傷後ストレス障害」と題した理由が「自身、そして自身が生まれ育ったシカゴの若者たちが精神的な傷を抱えていること」に由来するというのは予想できるだろう。
A Boogie wit da Hoodie, BJ the Chicago Kid, Lil Durk, Chance the Rapper, Juice Wrld, 21 Savage, Polo G, Jacqueesなどシカゴ出身のアーティストを中心に豪華ゲストを招いた新作『PTSD』で彼は何を表現したのだろうか。Apple Musicによるインタビューを参照しながら紹介していこうと思う。
“(PTSDは)文字通り、俺の生活が生み出した作品だよ。ちゃんと家に帰ってこれるかわからないくらい危険な状態で、毎日外出をしてた。だから俺の音楽は常にそういう状況を乗り越えてきた過去を描いてるんだ。”
ドリル・ミュージック発祥の地であるシカゴは全米3番目に人口が多い街でありながら、「治安の悪さ」という側面を大いにフォーカスされてきた。その危険性から「Chilaq(Chicago+Iraq)」という言葉が思い浮かぶが、彼自身も幼い頃から、まさに危険と隣り合わせの生活を送り、「PTSD」を患ったと告白している。
“ 病院でPTSDと診断された。俺自身一年ほどセラピストとも話し合ってきたよ。
俺はその事実を伝えて行くよ、全く異なるバックグラウンドを持つ人にも、自分のようなストーリーを伝えていくべきだと思うから。だって90%以上の人が、映画でしか(シカゴのような危険地域を)見たことないだろうから。彼らにとって俺たちの生活は日常じゃないんだ。俺は16歳にして殺人を見てきた。常にPTSDに苦しめられてきたんだ。母親に病気を伝えたから彼女は「逃げずに、受け止めなさい」と言ってくれた。「あなたは普通なんだから、全てを受け止めなきゃ」とね。
俺はザナックスやパコセット、リーン全てに手を染めてきた。学校に行って、誰かが死んで、学校に行って、銃撃されて。学校に行って、友達が殺されて。毎日がその繰り返しだったんだよ。みんなその日常に驚かなくなっていった。そんな日常のサイクルから逃避するためにドラッグを使っていたんだ。PTSDの定義は「殺人」や「暴力」を必ずしも経験しないといけないわけじゃない。全てのトラウマを意味するんだ。頭の中で繰り返される衝撃的な出来事だよ。
厳しい現実が襲ってくれば、人は深い闇に落ちてしまう。それが繰り返されるんだ。消えないんだよ、朝起きて次の日になっても、まだ心の中にあるんだ。同じサイクルが繰り返される。”
16歳で「銃撃を受けて、友人が殺される」という厳しすぎる現実を受け止めた若者たちはドラッグにのめり込んでいく。そしてこの悪循環は単に「暴力」や「殺人」というストリートにおける危険だけでなく、どんな衝撃的な出来事も引き金になると彼は語る。これは日本、そしていわゆる「銃社会」には当てはまらない世界中の国々に住む若者たちにも言えることだろう。
「全く異なるバックグラウンドを持つ人にも、自分のようなストーリーを伝えていくべきだと思うから。」
彼がそう語るのは、何よりも彼自身が過酷すぎる現実と向き合い「その現実をどう乗り越えたか」をラップを通じて私たちに伝えようとしているからだ。
“ 思うに、俺は自分の弱さを作品の中で告白できるんだ。そしてみんなの理解を得られると思う。
大きな影響力を持つラッパーや、アーティストは、みんなに「自分と同じ問題を抱えているはずない」と思われがちだ。でも俺はそういう問題に本当に光を当てたいんだ。そして俺自身がそういった問題をどう乗り越えてきたかを作品では語っている。俺は自分の抱えていた問題や弱さを受け止めてきた。みんなにもそうあってほしいんだ。”
彼の「自分と同じような若者たちに希望、そしてチャンスを与えたい」という思いから起きた行動は、音楽というアウトプットだけに限らない。
“ 俺が生まれ育ったような場所で育った人のうち、全ての人がそこから抜け出す方法を理解できるわけでない。だからこそ、もしリソースやチャンスがあるなら、それを使って、誰かを助けられるはずなんだ。
最終的にはただ状況から抜け出すだけではなく、その人自身が全ての人へチャンスを与えられるようになるべきだ。俺とチャンス(ザ・ラッパー)はすでに彼の財団を通じて一緒に協力してる。俺自身も財団を設立しているしね。彼はすでにメンタル・ヘルスに関しての知識を持っているし、一緒に何か助けになることをすぐにでもやろうとしているんだ。例えば、感情を吐露する施設を街に設けたりね。
チャンス以外にも、シカゴ警察のプレジデントであるJ-Bや、シカゴ市長のLoriと協力して、殺人発生率の低下に対し、アーティストと市の持つ「影響力」と「リソース」をお互いに用いながら尽力してるよ。キッズ達をストリートから離すためにね。
学校は素晴らしい。学校は素晴らしいカリキュラムを持っていると思うよ。ただ、俺たちはもっと子どもたちに「ライフ・スキル」を教えないといけない。どうすれば本当に生きていけるのか、どんな風にトラウマを受け止めるのかを伝えるべきだと思う。
チャンスはそういった活動をすでに行なっている。彼や俺は暴力の耐えない環境で生まれ育ってきた子どもたちを色々な方法で受け入れているよ。俺も同じような子どもだったからね。”
同郷出身のラッパー、チャンス・ザ・ラッパーがシカゴのメンタル・ヘルス機関に約一億円を寄付したニュースが記憶に新しいが、彼だけでなくハーボも市と協力しながら生まれ育ったシカゴの若者たちのために尽力している。
単に警察や市といった「行政機関」だけからでは得られないストリートからの理解、実際にストリートで生まれ育ったハーボのようなラッパーたちの意見や影響力とアーティストたちだけでは補うことのできないリソースを補い合うことで、彼らはより良い街と環境を作る道筋を作り上げている。
「自分も同じような環境で過ごしてきた」
「PTSD」を抱えたハーボだから理解できる苦悩や苦痛、そしてそれらを乗り越えてきた当事者的な音楽は、同じような環境で育った若者たちに希望を与える。実際に財団を通じて行政にも働きかけている姿を見れば、その想いがいかに強いものであるかはハッキリと伝わってくる。
“ 眠れないよ だって頭の中で戦争が起こっているから
殺し屋は良い調子だね あいつら俺が金を持っていることを理解してる
大金を持っても 俺はまだ怒りを抱えて、血を見てる
誰が楽しめるっていうんだよ? 仲間たちがみんな死んでるのにさ “ – PTSD
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