February 27, 2021
東京を拠点に活動するクルー Sound’s Deli の Tim Pepperoni と プロデューサー Puckafall がタッグを組んだEP『COZY LIFE TAPE VOL.1』がリリースされた。「ネガティブな感情(depressed)を抱えた人たちが感動する作品を作る」という共通のゴールを目がけている彼らの6曲入りのEPは、感情の浮き沈みとリンクする Puckafall によるビートと Tim Pepperoni のラップが、時に意気揚々と、時に憂鬱な、多彩なトラックを構成し、その世界観を作り出している。2人の出会い、原動力、客演に参加した3人のアーティスト、今作のタイトルや、期待される次作について聞いた。
EPのリリースおめでとう。まずは今日初めて話を聞くプロデューサーの Puckafall に質問をさせて。
Puckafall : よろしくお願いします。
Puckafall としてのファーストプロジェクトは?
Puckafall : ファーストプロジェクトが JP THE WAVY「Pick N Cheese」かな。
おおぉ。でもいきなり?どういう経緯だったの?
Puckafall : Pulp K っていうプロデューサーを通じて。Pulp K がプロデュースした JP THE WAVY の「Thank God」っていう曲のビートを聴いて「こんなビートを作る日本人おるんや」って思って。それで、Pulp をInstagramでフォローしたときに、彼も俺が投稿していたビートを聴いて「良い」と思ってくれたみたいでフォローが返ってきて。それがきっかけかな。
ありがとう。その直後に Tim とも出会った?
Tim Pepperoni : 俺もその時ちょうど「LSD VS ADHD」っていう Pulp がプロデュースしたEPを出したから。その後に知り合ったね。行っているスタジオも同じだったこともあって。
そこで初めて出会ったんだね。
Tim Pepperoni : 最初は電話だったっけ。
Puckafall : いや、最初は誰かのインスタライブだった。俺とTimの曲が入っているEPがあって。一緒に作った曲ではないんだけど。そこでEPに参加しているアーティストがインスタライブに出てたんだけど、そこで初めて喋ったはず。
それがいつ頃の話?
Puckafall : 去年の5月とかかな。
「こういうアプローチもできるよ」って感じで教えてもらったり。そのアドバイスをそのまま取り入れるのではなくて、自分なりに解釈して、ラップにする、ということをしてきた。- Tim Pepperoni
ちょうど1年弱前って感じだね。短い期間だけど、とても仲が良いよね2人は。
Tim Pepperoni : 最初の電話だったのに、2時間くらい電話したのを覚えてる。そこから頻繁に連絡を取りあって、ビートも貰って。今回の作品も、当初は色々なビートメイカーと曲を作る予定だったんだけど、Puckafall のビートがめっちゃ良かったから、2人で作ることになって。その流れで作った6曲が今回の『COZY LIFE TAPE』になったかな。
ありがとう。ちなみに Puckafall がビートを作ろうと思った経緯は?
Puckafall : 元々はラッパーになりたくて。で、曲を作ろうとしたときに、カッコいいビートが日本になさすぎるとも思って。
自分でビートも作らないと、と。
Puckafall : そう。それでビートを作ってみたら「俺、こっちの方がいける」と思った。初めて1週間くらいで、「多分、俺、音楽の才能あるかも」って。俺、友達がいなくて、暇すぎたこともあったから、そこで初めて1個の目標ができた。「まずはこれをやってみよう」って。
Tim Pepperoni : 始めた理由は似てるかも。俺もめっちゃ暇だった。
Puckafall : 俺は音楽の才能は本当にあるから、フロウやメロディを決めるトップライナーの仕事もできると思うし。今回の Tim のEPもプロデューサーとして、そういうこともしたかな。
Tim Pepperoni : 「こういうアプローチもできるよ」って感じで教えてもらったり。そのアドバイスをそのまま取り入れるのではなくて、自分なりに解釈して、ラップにする、ということをしてた。1人でやっている時よりは、一緒にやっている方がスピードも早くなったし。2人の方が、より色々な音楽を吸収することもできる。
本当の意味で”プロデューサー”ってことだよね。ビートメイカーではなくて。
Puckafall : 俺はプロデューサーの仕事がより重要だと思ってるんで。ラッパーを輝かせるのはプロデューサーの仕事だし。
Tim Pepperoni : さっき言った「アドバイス」も納得できないと全然ダメなんですよね。俺もわがままなタイプなんで、あんまり人の言うことをすぐ受け入れるタイプじゃないんだけど。でも、今 Puckafall のビート以外は、どのビートを聴いてもカッコいいと思わなくて。海外の作品を探しても「ラップはいいけど、ビートは良くないな」と思うことが増えてるんだよね。だからこそアドバイスもスッと自分に入ってくる。言葉にできないニュアンスみたいなものも伝えてくれるし。
Tim から見た Puckafall のビートは、他のビートと比べて何が違う?
Tim Pepperoni : 俺はビートのことは詳しくわからないけど、一番好きなのはドラム。
Puckafall : これは確実に言えるけど、日本人で俺にドラムで勝てるやつはいないと思う。勝てるやつがいるなら、一緒にやろうよって感じ。
俺が Puckafall と初めて会った時に感じたのが「ここまでエナジーを感じる人は中々いない」ってこと。そのエナジーの原動力はどこにあるの?
Puckafall : 何がこのパワーになっているか、で言うと、絶対にマイナスな気持ちだと思う。恨みとか、悔しさとか。その理由は人生において下から「見上げる」経験を沢山してきたからだと思う。常にイライラしたり、不安なことがあったりしてきた。それで今、こうして音楽をやってるけど、上手くいかなかったら、また昔と同じ状況になってしまう。それだけ。それと、鬱のやつらに頑張って欲しいという変な使命感っすね。俺がいないと、俺みたいなやつが助からないっていう。勝ったら成立する。それだけが原動力。
過去の自分みたいな人が聴いた時に、感動するような曲を作りたいとずっと思ってる。- Puckafall
ありがとう。でも、今回の作品も含めて、トラックや作品自体に攻撃性は感じないよね、むしろ聴くと、抱えていた不安とか怒りが開放されるようなイメージ。
Puckafall : 作っている時の気持ちの状態が、そのままビートに反映されるかな。そもそも、なんで俺がビートを作るかという話に繋がるんだけど。俺はずっと鬱で悩んでいることもあって、高校の時とかに Lil Peep を聴いてて。かつ英語にも興味があったから、何となくリリックもわかっていたけど、その時に「日本語でも、これを聴きたい」と思って。そっちの方が”入って”くるし。わざわざ和訳するのも面倒くさいし。直接理解したいし。俺の周りにはそういう音楽を作っていって欲しいと思ってて。過去の自分みたいな人が聴いた時に、感動するような曲を作りたいとずっと思ってる。どんな曲のテーマでも、感動的な作品にしたい。
ありがとう、それを踏まえて、今回の作品で目指したもの、ゴールはある?
Puckafall : そういうやつら(自分たちのような)のために作ろうぜ、とは言ったよね。
Tim Pepperoni : リリックは特にね。俺とPuckafall はそこの考え方が根本的に一緒だから。そういうリリックを込めた作品を音楽性の高いものとして作りたいと思ってた。
今回のEPのタイトル『COZY LIFE TAPE VOL.1』について聞かせて。「Cozy」はリッチで、落ち着いた印象を受ける言葉だけど、作品中では現状に完全に満足しているような印象は受けなかった。むしろ、この作品がVol.1とナンバリングされているように、Vol.2、Vol.3とVolを重ねていくごとに「Cozy」な生活に近づいていくイメージを持っているのかなと思ったんだけど。
Tim Pepperoni : まさにそうだね。
Puckafall : そうやな。プロデューサー的に言うと「COZY LIFE」や「CHROME HEARTS」は「トラップが好き」とか関係なく、みんなが聴けるような作品にしたかった。「COZY LIFE」は特にポップさを意識したし、フレッシュな曲調にしたくて。この作品の最後はちょっとテイストの違う「X-DAY」の Different Ver なんだけど、自分たちの進化というか、次の作品への期待を作りたかった。
Tim Pepperoni : だから、次のVol.2もすぐ出します。色々な人から「早く次も聴きたい」という声ももらってて。
俺も今回の作品を聴いて「もっと聴きたい」と思った。
Tim Pepperoni : 嬉しい。何個も作品を出して色々な人に聴いて欲しいですね。Vol.3から聴き始めて、Vol.1も聴いてみたりとか。ポップさという意味では、「CHROME HEARTS」とか、ミックス、マスター含めて500回とか聴いてるけど、まだ全然聴けるし。
ありがとう。「CHROME HEARTS」の客演の Ludio について聞かせて。彼との出会いは?
Tim Pepperoni : Ludio も Puckafall と同じです。スタジオに来て。
Puckafall : 元々、俺が出会って。たまたまアカウントを見つけて、投稿の動画を見たら英語でラップしてて。それでカッコいいなと思ってたら「Osaka」って書いてあって「マジか」ってなって。それでDMしたら「NY生まれの15歳です」って返ってきて(笑)。
Tim Pepperoni : ヤバいよね(笑)。
ヤバいね。最初に聞いた時、本当に驚いたもん。
Puckafall : その後、改めて会って3日後くらいにEP作るぞ、ってなって。その流れで Tim との曲も制作して。Ludio は BabySantana ってアメリカのラッパーと同じコミュニティにいたんだよね。
Tim Pepperoni : Ludio は Sound’s Deli のみんなともよく遊んでて。新宿行って焼肉食ったりとか、恵比寿に遊びに行ったりとか、みんなで可愛がってますね(笑)。
「COZY LIFE」の客演の2人は?元々、仲が良かったんだっけ?
Tim Pepperoni : いや、この曲から。前のEP出した時に、ハイパーポップをやってるのも珍しいということもあって、Only君からリアクションをもらって。そしたら螺旋(RASEN)でも一緒になって、そこで曲作りましょう、って流れになって。そこで Hezron も出会ったね。その日がめっちゃ楽しくて、高校生みたいに朝まで話して(笑)。そこで一気に仲良くなったかな。
今作の制作を通して、一番アガった瞬間はあった?
Tim Pepperoni : 「DALY」が出来たとき。
Puckafall : 俺も「DALY」やな。進化が見えるよね。
一番お気に入りのトラックが出来た瞬間というか。
Puckafall : 俺はこの曲が出来たときくらいに、もう次のステージだなって思った。
Tim Pepperoni : 単純に気持ちが良いよね。これがマンブル・ラップなのかなって思った。こんなに同じワードを繰り返して良いのかなとも最初は思ったし。
Puckafall : あの曲、リリックとして意味はないやん。人生が変わるようなラインはないし。でも、まるで人生が変わるように聴こえてくる。その力って強いと思う。
シンプルなリリックでも、繰り返すことで意味が出てくることってあるよね。
Tim Pepperoni : しかも、繰り返し聴けるからね。疲れないというか。例えば「COZY LIFE」は聴くのにパワーがいるかも。
Puckafall : 無意識的に聴けるよな。心臓のテンポに近いというか。
ラップって才能もあるけど、やればやるほど上達するものだと思ったんだよね。だから「DALY」を作った時みたいに、もっと自分のスタイルを大きくしていって、進化を止めないようにしたい。- Tim Pepperoni
最初はあの曲がタイトル的に『COZY LIFE TAPE』っていう作品自体の軸になっているのかなって思ってた。ゆったり、チルな感じがあるから。
Puckafall : そうやな。今回の作品は「DALY」みたいな落ちてるサウンドもあるし、ポップなものもあるけど、そういう浮き沈みも「COZY LIFE」の一部なのかなって思ってる。そのバランスが丁度良いかな。
Tim Pepperoni : 自分の浮き沈みに合わせて、暗い時には暗い曲ができるし。Puckafall もさっき言ってたけど。でも、次の作品では、もっと強気な曲が増えるかもしれない。
Puckafall : ラッパーとしての次のビジョンは?
Tim Pepperoni : お前が質問してるじゃん(笑)。
(笑)
Puckafall : いや、普通に気になって(笑)。
Tim Pepperoni : 『COZY LIFE TAPE』を作っている時が、一番曲を作っていたんだけど、その時に思ったことがあって。ラップって才能もあるけど、やればやるほど上達するものだと思ったんだよね。だから「DALY」を作った時みたいに、もっと自分のスタイルを大きくしていって、進化を止めないようにしたい。
ありがとう。気になったんだけど「X-DAY」っていう曲のタイトルはどういう意味で使ってる?
Puckafall : 俺も気になってたわ。
Tim Pepperoni : 「X-DAY」っていうのは、自分にとっての「音楽生活の終わり」という意味。その終わりを「超えていこう」って歌ってる。
ありがとう。
次の作品に期待して欲しいことを教えて。どんなイメージで作品に向かっていってる?
Tim Pepperoni : 新しいスタジオが出来てから、他のラッパーとセッションすることが多くなったかな。ShowyVICTOR と Hezron との曲も2曲出るし。その辺が面白いかも。普段、歌わないようなことが3人でやるからこそ、リリックに出てきたり。 例えば「IMA」って曲は、自分が過去に出したEPのバイブスを感じるようなラインを Hezron が歌っていたり。逆に「RACKS」って曲は、自分が今までやってこなかったようなハードな曲調になっていたり。そういう進化が入っていると思います。
Puckafall : 俺的には次の作品は「オープンカーで聴けるような作品」になってると思う。聴いてる自分がカッコいいと思えるような。明らかに過去のビートとは違った作品になってる。確実に、何倍も違うもの。
Interview & Text : Shinya Yamazaki(@snlut)
Photo : jacK(@______t_t________)
Tim Pepperoni 『COZY LIFE TAPE VOL.1』
Release Date:2022.01.23
Tracklist:
01 : Chrome Hearts (ft. Ludio)
02 : Rolex
03 : Cozy Life (ft. Hezron & Only U)
04 : Daly
05 : X-Day
06 : X-Day (Different Ver.)
RELATED POSTS
NEWS
FEATURE
LATEST LYRICS