Tyler Tomoda
July 2, 2020
1997年・1998年生まれの5人組によるヒップホップ・クルーSound’s Deli(サウンズ・デリ)。
ハンバーガーとサンドイッチに囲まれたアメリカン・ダイナーの一席で笑みを浮かべる5人はどこまでも自由で、どこまでも柔軟だ。
「TrapでもBoom-Bapでもないね」と歌う彼らは、数え切れないほど多くのラッパー / クルーが登場しているシーンの中で、誰かのフォロワーではないユニークな輝きを放っている。彼らの作品を一聴すれば、そのリリックの真意はすぐにわかるだろう。21歳 / 22歳のメンバーで構成される5MCのクルーは一見、相容れない関係性に見えるTrap とBoom-Bap のどちらをもその感性に取り込み、新たな立ち位置を見出している。
過去の作品を見ても、その柔軟さと多才さは際立っている。SoundCloud にアップロードされた音源で、無骨なビートに鋭いラップを乗せたと思えば、アトランタ出身のプロデューサーCash Fargo がトータル・プロデュースしたエクスクルーシブEP『¥ellow Ca$h』では*JET LIFEを思わせるきらびやかなサウンドを自分たちの物にしている。彼らのサウンドにおける多様性は、メンバーそれぞれによる様々な趣向とバックグラウンドが混ざり合い育まれたものだ。(*JET LIFE = Curren$y 擁するニューオリンズのヒップホップ・コレクティブ)
そんな多様なジャンルを操る彼らの作品、そして彼ら自身に共通するのは、理想を追い求め挑戦をやめないポジティブな精神性と、クルーへの愛情だ。「俺はちょうど中3くらいに第1回の高校生ラップ選手権の存在を知って「高校生でも出来る」と気づいた。」と隆盛を極めた大会に出場したG-Yard は語る。Sound’s Deli を構成するのは97年・98年生まれのメンバー。「フリースタイル・バトル」というカルチャーを中心に日本の若者たちに再びラップが注目された、そんな時期に中学〜高校時代を過ごしたメンバーたちは22歳になった今、「音楽をずっと続ける」という理想を掲げている。そんなポジティブな挑戦を続けることができるモチベーションは、何よりクルーがいたからだとGypsy Well は曲中で語る。
“ 俺らがもしも出会ってなかったとしよう、きっと今よりBlack 先の見えないRoad – Same Gold ”
彼らの音楽において特徴的なのは、自身らの姿を偽りなく、ありのままに語っていることだ。プロダクションのレベルは勿論、時には不安を垣間見せながら仲間と共に理想を追い求める等身大の姿と、それらを描写する巧みなラップを聴けば、間違いなくその理想は少しずつ現実へと近づいていると断言できるだろう。
TYLER TOMODA
7月3日にリリース予定のEP『RUMBLE』でその道筋はさらに明確になっている。シーンの誰もが実現できていない、自分たちが追い求めるフレッシュな音楽を楽しみながら徹底的に追求すること。仲間への愛情を持ちながら、ポジティブで前向きな姿勢をもって上を目指し続けること。今作でも彼ららしいそのマインドを披露してくれている。
“ 不安みたいなものはなくなったかな。今は前しか向いてないです。- Tim Pepperoni ”
今回SUBLYRICSが行なったインタビューで最新作のリリースを控えた彼らが見せたのは、前作『¥ellow Ca$h』に見えた不安の様相とは一転、自信に満ち溢れた言葉と、決意の表情だった。今回のインタビューでは未だ謎の多いクルーの結成から、普段の制作、過去作品、最新プロジェクト『RUMBLE』について、将来的な目標までを語ってくれたので紹介していこうと思う。
ー クルー結成の経緯を教えてください。
Kaleido : Moon(Moon Jam)がイベント「evrgreen vol.1」を始めてそこで知り合いましたね。そこに集まったメンバーが「みんなでクルーをやりたい」と話してて。MET君の家でレコーディングを始めてという感じで。
Moon Jam : MET君はいつも曲を一緒に作っているトラック・メーカー。でも、<Sound’s Deli>のメンバーではないんだよね。元々俺とMET君が一緒に曲を作っていて、後でみんなも彼と出会って。Gypsy Well と一緒にブッキングをしていた「evrgreen」で同い年ぐらいでイケてるアーティストを集めようと思っていて。<Sound’s Deli> はそこで集まったメンツですね。結成は2019年の夏です。
ー 元々全員が知り合い、友達じゃなかったわけじゃないんですね。
Moon Jam : そうですね。イベントで集まった演者とTim。自分が開いたイベントがきっかけです。同い年というのも大きかった。地元もバラバラなので。
Tim Pepperoni : 俺は普通に演者ではなかったから、当日にGypsy Well から連絡が来て行きましたね。直前まで迷ってたから、普通に行かない可能性もあって。
ー 大きな決断でしたね。まさにイベント当日に結成が決まったんですか?
Kaleido : そこからジワジワって感じです。徐々に仲良くなってったよね(笑)。
ー イベントで集まったところから、5人のクルーの結成までけっこう距離感があると思うんですが、どう仲良くなっていったんですか?
Kaleido : 徐々に集まってですかね。俺とTim、Gypsy Well は元々普通に遊んでたり、曲も録ったりしてたし。
Tim Pepperoni : 曲を録り始めたら、もう自然にね。
Moon Jam : でもやっぱり、みんな元々クルーとしてやりたいマインドは持っていたんだと思う。
TYLER TOMODA
ー それぞれ個人でラップをしていた上で、クルーとしてやりたいというモチベーションがあったんですね。
Sound’s Deliには「We keep delivering delight and delicious sounds – デリシャスなサウンドと喜びを届け続ける」という印象的なコンセプトがありますが、クルーの名前や、このコンセプトを決めるに至った何か理由があるんですか?
Kaleido : イベントの名前だったんですよね。
Moon Jam : そうそう。Kaleidoがやっていたイベントの名前が「Udagawa Sound’s Deli」で、そこからですね。フライヤーや、ロゴもKaleidoが作ってて。
ー Gypsy Well やKaleido はSoundCloudを見ても、4年前〜5年前、歳でいうと、高2・高3くらいから音源の制作をしていますよね。G-Yard は高校生ラップ選手権にも出ていたり。ラップを始めるのは早い方だったと思うんですが、当時何かラップを始めるきっかけはあったんですか?
Moon Jam : キャリアは長いほうかもね。でも、俺は大学に入ってから。
Tim Pepperoni : 俺も高校の終わりくらいからですね。親父がオールジャンル聞く人で、沢山CDを持っていて、その中からBeastie Boysや日本のヒップホップを見つけたのが、きっかけです。曲とかをしっかり撮り始めたのは高校卒業してからですね。
Gypsy Well : 俺は高校1年の終わりとかで、地元の友達でやってみようぜってなって。公衆便所の中とかでフリースタイルとかやってて。って感じですね。
G-Yard : 俺はちょうど中3くらいに第一回の高校生ラップ選手権の存在を知って「高校生でもできるんだ」と気づいて始めました。最初は一人でフリースタイルしてましたね。
Tim Pepperoni : 最初一人だった。俺も最初は風呂場で一人だったし。
Kaleido : 俺は高校の時にアリゾナに留学してたことがきっかけですね。アメリカではヒップホップが本当にメジャーな音楽として扱われていて、それに影響を受けました。そこから日本に帰ってきて、日本語ラップの存在を知って「じゃあ俺も」と興味を持って。ちょうどその時に友達がサイファーに誘ってくれたんですよね。
ー メンバーはまさに中学3年、高校1年くらいの時に高校生ラップ選手権などの影響もあり「自分たちのような世代もラップができるんだ」と思わされた人が多かったと思います。その第一世代が今、ちょうど20歳を超えて、活躍し始めているのかなと。
G-Yard : うん。俺らの世代で若い世代の敷居が一気に低くなったと思う。
Tim Pepperoni : いざ流行るよりは、少し早く始めた世代かも。ちょっとだけ早かったかもね。
Kaleido : その世代から沢山ラッパーが増えた感触は、実際にあるよね。
ー Sound’s Deli の作品の中にはBoom-Bapの要素が強いものもあれば、サウスのトラップっぽいもの、JET LIFEっぽいきらびやかなサウンドと、本当に幅広いジャンルを制作されていると思うんですが、音楽的にはどんなものを聴いて、どんな影響を受けてきたんですか?
Moon Jam : Down North Camp とかはやっぱり共通してみんな超好きです。青春って感じだよね(笑)。JET LIFEはビート・メイカーのMET君に教えてもらったよね。それが自然に出ている感じ。
Tim Pepperoni : 元々は海外の音楽は、あまり聞いてこなかったけど。
G-Yard : 『¥ellow Ca$h』の曲とか俺、Sound’s Deli が結成してなかったら一生やってなかったかも。ずっとBoom-Bapだったから。
ー 日本でも今若い世代のクルーや、若手ラッパーたちが過去にないほど増えていると思います。しかし、Sound’s Deli のようなBoom-Bapやいわゆる「日本語ラップ」と言われるクラシックなスタイルを形にした上で、今らしいフレッシュなサウンドを採用している同世代のクルー / ラッパーはあまりいないように思うのですが。
Tim Pepperoni : 俺はそう思ってる。地元の友達がトラップ・ビートを使ってるグループが大好きで、その友達に俺の曲を聴いてもらったら、一言目が「内容がある」だったんだよね。「けど、トラップだし。変な感じ」と言われて。
TYLER TOMODA
ー みんなDown North Campを代表に日本のラップも通ってきているけど、メンバーの中には海外に住んでいたことがあったり、国外のトレンドをしっかり追っている人もいたりして。それぞれが影響し合っているのが伝わってきます。
Tim Pepperoni : うん。そうだと思いますね。
Kaleido : なので海外、国内とかはもう関係なく、みんなで教えあって。今はどちらも聴いていますね。
ー ありがとう。MVも公開されている2枚のシングル「Sound’s Deli」と「Platinum Chain」のテーマを教えてください。
G-Yard :「Sound’s Deli」は、 自分たちが結成して一番最初に作った曲で、まさに自分たちらしい作品になっていると思います。
Tim Pepperoni : 1つ目の「Sound’s Deli」はもうアンセムですね。やっぱり初めて集まって作ったものだし。
Moon Jam : とにかくモチベーションがかなり高かった。今も高いけど、その時の勢いがあったよね。
Tim Pepperoni : 2つ目の「Platinum Chain」は、憧れていたビートメイカーのGradis Niceさんに初めて提供してもらえたのがやっぱり大きかったです。みんな好きだから。
ー 特にGRADIS NICE が手掛けた作品では、これから「上を目指す」という意思をハッキリ感じました。
Tim Pepperoni : MVも曲の内容もそうだよね。1人では出来なかったけど、5人でなら行けるという希望がそこにあると思います。
ー 『¥ellow Ca$h』や2枚のシングルを経て、最新作『RUMBLE』はどんな作品になっていますか?
Kaleido : 今回の『RUMBLE』は1からどういう曲を作って、どういうEPにするか、を最初の段階で考えた上で作っていきましたね。
Moon Jam : てか、MET君が完全にディレクションをしたんだよね。誰がどのビートでやるか、とかも全部決めてもらって。
Gypsy Well : 先に全てビートを用意してもらってね。
MET : 今まで、俺はミキシングをやったり、指示を取る機会は多かったんだけど、今回はそこをビート含めて総合的にやったイメージ。ここが前作までと大きな違いですね。前回の『¥ellow Ca$h』は制作期間がタイトだったし、ビートも完成したものが送られてくるから、自由度は当たり前だけど低くて。今回はその自由度が上がって、俺がラップの仕方とか、構成とか、指揮も行った感じ。
ー ビートメイクというよりかは、まさにプロデュース・ワークですね。今回は構想から作り込んだというお話だったんですけど、その構想自体はどんなものでした?「こういうテーマにしたい」とか、「こんな雰囲気のEPにしたい」など。
MET : 一発半端ないエネルギーを持った「強い」ものを作ろう、というのはありました。大きいノリで、タフだけど、サウンドは今風で、BPMも遅め。60よりちょっと遅いとか。あんまりキャッチーなウケを狙ったものじゃなくて、スキルを見せたり、そういう自分たちのスタイルとか姿勢を一貫して見せようっていう気持ちで作りましたね。とにかく大きいノリを見せたかったんだよね。「ドカーン」って感じのやつ!(笑)
Moon Jam : そうだね。NYの現行のシーンに近い、大きいノリを見せたくて。これが今のやりたいことですね。
MET : うん。ふわっとした雰囲気のものはなくて、パキッとしたものが多いし、やっぱり暗いしね。でも、それだけじゃ面白くないから、工夫とか仕掛けみたいなものを作品には織り込んであるかな。良い意味の裏切りが最後に入っていたりとか。
ー ドカーンとしたもの!最高ですね!前EP『¥ellow Ca$h』は「挑戦と不安」というのが作品を通じてのリリックのテーマ性としてあると個人的に感じたんですけど、今作はリリックにおけるテーマとか、作品を通じてのサウンド面以外の一貫したものはありますか?
Tim Pepperoni : 不安みたいなのはなくなったかな。今は前しか向いてないです。
MET : 攻めてると思う。結構力強い言葉使いも多いかな。今まで取り扱ってなかった恋愛のテーマとかもあるし。
ー サウンド含め、自信に溢れたものになっていると。
MET : うん。特に最後の曲は、自分たちの未来だったり、逆に今まで自分が影響された人のことの話とか。ライバルじゃないけど、同世代の人たちに向けて「おいてくぞ」っていう決意的なメッセージが入ってる作品になってますね。
ー 「Sound’s Deli」「Platinum Chain」の反響も大きかったと思います。そこでクルーとしての自信がついた部分もありましたか?出したものがきちんと評価された感覚というか。
MET : 二つのMVを出す前に、これからSound’s Deli がクルーとして、どう動いていくかを話す機会があって。そこで今後の目標とか、制作のスケジュールを決めたので、今回の作品の内容に反響が影響したことはないですね。
Tim Pepperoni : でも、その話からもっと動きが本格的になったっすね。ダサいことはしないとか、自分たちのルールを決めたり。
Moon Jam : まあ「決まり」というより、自分たちがカッコいいと思ったことを突き詰めることだよね。でも、遊びの延長線上に俺らの曲があることは変わらなくて。
ー ありがとうございます。最後にもっと先、将来や長期的な目標について教えてください。
Tim Pepperoni : 長期的な目標でいうと、働いても何してても、やっぱり毎週集まって、曲を作って、という遊びをずっと続けたいですね。それを継続するためにも、お金も稼ぎたい。何よりこの遊びを続けるために。
Kaleido : やっぱり音楽を続けたいです。稼いで、そのお金を次の作品へ。というサイクルを生み出し続けたいですね。
TYLER TOMODA
Interview & Text : Shinya Yamazaki(@snlut)
Photo : Tyler Tomoda(@tylertomoda)
Sound’s Deli:東京を拠点に活動するG-YARD、Gypsy Well、Kaleido、Moon Jam、Tim Pepperoniから成る5MCクルーSound’s Deli。“ We keep delivering delight and delicious sounds ”
2019年12月、アトランタのプロデューサーCash Fargoと手を組み作り上げられたエクスクルーシブEP『¥ellow Ca$h』をリリース。2020年7月3日にはEP『RUMBLE』をリリース。
『RUMBLE』
LABEL:Sound’s Deli
発売日: 2020/7/3 (金)
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