Twitter : 2 Chainz
November 29, 2020
ジョージア州出身のラッパー 2 Chainz が6枚目のスタジオ・アルバム『So Help Me God!』をリリースした。ユニークなパンチラインをトレードマークとして持つラッパーの新作は、43歳を迎えた彼の柔軟でラップ・スタイルとスマートさを強く感じさせる、幅広いテーマ性とサウンドを内包している。
オープニングトラック「Lambo Wrist」で、ランボルギーニほど高価な時計をつけるというフレックスを見せつけたと思えば、Kanye West、Brent Faiyaz とのコラボ作「Feel A Way」では神への畏怖と、奴隷として扱われてきた黒人の歴史に触れる。14曲目「Wait for You to Die」では Pop Smoke の名前を挙げながら「みんなお前が死ぬのを待ってる。レーベルはお前が死ぬのを待ってるんだ」と、アーティストや仲間の死がビジネスとして利用されることへの皮肉を見せ、アルバムのラストを飾る「55 Times」では、息子を持つ仲間の一人を失った衝撃がストーリー形式で綴る。ウィットに富んだラインでボースティングを見せたかと思えば、ストーリーテリングまでこなす彼の多才さは際立っている。
トラック、サウンド面でもそれは同様である。BJ the Chicago Kid の「I Love You」のヴォーカルをサンプリングした「Save Me」では、ソウルフルなメロディとバウンスをミックスさせる試みを見せ、Lil Wayne を迎えた「Money Maker」では、ルイジアナの Southern State University のマーチングバンドの演奏を大胆にサンプリング、母校 Alabama State University にシャウトアウトを送り、サウスへの愛情を表現。Jay-Zのクラシック「Feelin It」をサンプリングした「Southside Hov」もサウンドという意味で間違いなくアルバムのハイライトと言えるだろう。
そんなバラエティに富んだ新作に込めた想いについて彼はこう答えている。
“ 『So Help Me God!』には色々な意味を込めているんだ。まず明らかなのは、これが何らかの責任を負った人間による「誓い」であるということ。俺にとっては、今年、このクソみたいな年に、「より良い夫であり、父であり、友人、アーティストである」ことこそが誓いさ。確かに俺はリアリティ・ショーに出てる女とデートしたハイプもないし、インスタグラムで誰かを罵倒したりもしない。けど、音楽に関して言えば、コンセプト、マーケティング・アイデア、それぞれにおいて、俺と俺のチームは過去最高のものを産み出してる。今までの歴史の中で最も最高なものの一つだ。
きっと俺はこの作品でみんなを驚かせるよ。俺はまだ「Money Maker」のような曲を作れるし、手を先に伸ばして、今までやったことのないような曲をやってみようとも思うんだ。この作品を通じて、そういうことに気づかせてくれた神様に感謝してる。自分に正直であること、自分が何者かに忠実であること。他のアーティストやプロデューサー、物事に対して、自分がいかに自然体でいられるか。人生において、そういう状態こそが上手くいくと理解してる。『So Help Me God!』は間違いなく映画のような作品だ。スリラーだよ。みんながポップコーンを片手にチェックしてくれるのが待ちきれないね。- Complex “
1997年からラッパーとして活動し、20年以上のキャリアを持つ彼のバラエティに富んだ新作の中で、一貫しているのは、そのハングリーな精神性と、慈善活動を行う彼ならではのコミュニティ・仲間へのサポーティブな姿勢だ。「Money Maker」のようなパーティ・チューンは勿論、リリックでも「俺はカルマを信じない/お前のシスターとファックするくらいに俺は若い/俺はビーストで疲れ知らず。お前らじゃついて来れない。– Grey Area」と、年齢なんて関係ないと言わんばかりの言葉をスピットしている。アルバム・ジャケットに自身の中学時代の写真を採用し「写真の編集ソフトを買う余裕がなく、ドラッグディーラーに憧れを抱いていた」という当時の心境を描き出したのは、ある種「初心に返る」という意図もあったのかもしれない。
一方で、コミュニティへのサポーティブな姿勢というのは以下のリリックで垣間見える。
“ Yeah, when people ask me for some money, I tell ‘em get in line (Line)
みんなが金を求めたのなら、俺は列に並んでくれと伝えるよ
Another funeral, I done paid for all my niggas dying
また葬式だ。仲間たちの去り際にかかる金は俺が払ってきた
I got that PTSD syndrome so all I hear is sirens
PTSDの症状が出てる。だから耳にはサイレンしか聞こえない
I text my nigga but I guess he ain’t, hе ain’t replyin’
仲間にメッセージを送る、けどきっと彼から返事は来ないんだ – Save Me “
“ You know what kind of home I came from, I got free lunch
みんな俺の出身は知ってるだろ
俺はフリー・ランチを貰ってたんだ
There’s so many people I take care of every month, Lord
今じゃ俺はたくさんの人の生活を背負ってる – 55 Times “
“ A felon can vote, spread the message, exhale accapella
犯罪歴があっても投票できるんだ。メッセージを拡め、アカペラを歌おう – Feel A Way “
彼は金銭的なサポート、貧困地域での食料提供チャリティ「Feed Your City Challange」や、選挙に際してファンや地元コミュニティに投票を促す活動も行っている。(*Feed Your City Challenge は元NBA選手の Ricky Davis と レーベル SuaveHouse の代表を務める Tony Draper が始めた貧困地域への食料支給チャリティ、ムーブメント。Pusha T や 2 Chainz などラッパーもこの活動に参加し、チャリティは全米に広がっている)
彼は「Feed Your City Challenge」についてインタビューで以下のように語っている。
“ 元々はある人に声をかけられて始めたんだ。まさかこの活動に対して「No」とは言わないだろ。それこそがアンサーだよ。
参加してもうすぐ1ヶ月が経つけど、オーガナイザーと俺、俺のチームも良い関係だし。彼らはアトランタのことをよく考えてくれてる。俺もコミュニティの中で過去に色々な活動をしてきたから、みんなにとっても意外ではないと思うよ。
俺がどんなことに想いを馳せていて、自分のプラットフォームをどんな風に使っているかは、街の人は知ってくれているはず。だからこそ今回も参加した。実際の活動が待ちきれなかったよ。うちの家族も一緒に参加してね。何かに「還元する」ことが、どういうものなのか、子どもたちに見せてあげたくてね。- Complex ”
また、3つ目に挙げた「Feel A Way」に登場した「犯罪歴があっても投票できるんだ」というラインはまさに彼が大統領選挙の時期に発していたメッセージそのものである。Rapsody など複数のアーティストと共に Sprite とパートナーシップを結び、投票を呼びかけるキャンペーンを行っていたり、社会活動も熱心に行う彼だからこそのリリックと言えるだろう。彼は犯罪歴と投票の権利、選挙について以下のように語っている。
“ 俺がずっと伝えようとしてきたことの一つは、過去に犯罪を犯した人でも投票の権利が再び得られるってこと。「犯罪歴のある人なんてほんの数%だろ」と思うかもしれないけど、俺は彼らに伝えたいんだ。というのも、俺も若い頃に過ちを犯してしまったから。
俺が始めて投票したのはオバマへの一票さ。大事なのは、投票ができるということを知らせる情報。俺も色々な州で周知の活動を行ってきた。犯罪歴があっても、同じように声を挙げることができると。
今、大麻の所持で刑務所にいる人のことを想像してみてくれ。この世界で最もクレイジーなことだよ。多くの州で合法なのにさ。大昔に過ちを犯してしまった人のことを想像してみてくれ。だから俺はそんな人たちに情報を伝えていくことが大事だと思ってる。保護観察を終えていたら、投票はできるんだってね。それに、まだ刑期や保護観察の期間が残っている人でも、投票できる人はいるんだよ。黒人は投票が必要だということを知っておくべきだ。みんながその重要性を本当に理解してくれることを願うよ。けど、俺はとにかく自分の役割を全うするだけ。みんなが聞く耳を持ってくれているうちは、この声を使ったほうがいいからね。- Complex ”
自身の影響力を用いて、チャリティや社会活動の面で積極的に活動し続ける 2 Chainz。『So Help Me God!』はそういった活動ともリンクしたラインもあるなど、今のリアルな彼が表現された一作であると言えるだろう。Complex のインタビューでは、今作にも参加した Kanye West がトータル・プロデュースしたアルバムがいつか実現することを明言していたり、Lil Wayne とのジョイント・アルバム『ColleGroove 2』を遅くとも来年にはリリースすると語られているので、ぜひ全文を。それらのアップカミングなアルバムを楽しみにしつつも、まずは今作『So Help Me God!』で彼が見せた多才さと自信に溢れた楽曲の数々をチェックして欲しい。
Writer : Shinya Yamazaki
Edited by : SUBLYRICS
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