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過去の遺物を読み解き脱構築する
Dos Monosの音楽と思想

May 25, 2020

2018年、ロサンゼルスに拠点を置くアメリカのレーベルDeathbomb Ark(デスボムアーク)と契約した荘子it(Zo Zhit)、TaiTan、没(Botsu)の3MCから成るヒップホップクルー、Dos Monos

Deathbomb Arkには、Pitchfork(ピッチフォーク)のBest New Musicに選ばれたJPEGMAFIA(ジェイペグマフィア)や、SF・ファンタジー作品や関連人物に贈られるヒューゴー賞に2年連続ノミネートしたclipping.らが所属しており、日本人アーティストとして契約したのはDos Monosが史上初。また、2017年にソウルのThe Henz Clubで海外初ライブを成功させ、音楽評論家のAnthony Fantano(アンソニー・ファンターノ)に楽曲を好意的にレビューされるなど、まさに今、国内外から注目を集めているクルーの一つだ。

Dos Monosの楽曲、過去の遺物の破壊と再生(脱構築)を繰り返すことで創造的なビジョンを見せるトラックと、時空に亀裂を入れるような“ 捻れ ”や“ ズレ ”を感じさせるタイトルとリリックから成っており、この構成要素こそが彼らの魅力である。では、彼らの音楽のコアとなるこれらの要素とは、具体的にどんなものなのだろうか。

過去のインタビューやDos Monos自身による楽曲の説明を基に、彼らの作品の特徴、その魅力について以下で語っていこうと思う。

過去の遺物を脱構築した創造的・独創的なトラック

元ネタを精読することでその本質を掴みつつ、Dos Monos独自の解釈や主張も込めるトラック・サンプリングはDos Monosの楽曲の魅力の一つである。この手法は「脱構築」という概念を通じて行われているそう。

「脱構築」というのはフランスの哲学者ジャック・デリダの主要概念で「既存のシステムを解体・破壊し、新たなシステムとして生成・再生」するという考えである。

荘子itは、西洋哲学を執拗に読み込み、否定し、独自の哲学を生みだした哲学者ジャック・デリダを例に挙げ、彼がしてきた哲学は「ある意味西洋哲学の伝統に別のやり方で則っている」と評し、自身のサンプリングについて「偉大な先人たちがやっていたことを面白おかしくいじってやっている」と言及している。また、「インディペンデントとして生き残る上で、システマチック(組織的、体系的)に生きること、既存のシステムに則ることは楽だし簡単だが、インディペンデント的であるためには自分自身が新しいシステムを確立していく必要がある」とも語っている。

彼らの作品において「脱構築」を実践している例といえば、2019年リリースのアルバム『Dos City』の収録曲、「in 20XX」が挙げられる。ジャズピアニスト・セロニアス・モンクの代表作で、不協和音を多用したイントロが印象的な楽曲「Brilliant Corners」(ブリリアント・コーナーズ)のイントロのみをサンプリングしているこの一曲は特殊なイントロだけを3分39秒反復させている。楽曲の構成要素の意義や概念を思わず疑いたくなってしまうような面白いネタ使いである。

そして、上記したように既に構築されているシステム(「in 20XX」なら「Brilliant Corners」のイントロ)やその概念(イントロは導入部分だということ)を、破壊したり変形させたりして引用し、独自のトラックとして新しく再生・復活させることで、元ネタを面白おかしくいじると同時に“ 脱構築 ”や“ ポスト・システム ”を感じさせる作品に仕上げているわけだ。

 

時空に亀裂を入れるタイトルやリリック

音楽を作り上げる上で、3人の共通意識としてあるのが「価値観が多様に広がる可能性を否定してしまうような固定的な思考を否定する」というもの。
「あらゆる価値観が広がっていいと思うからこそ何か行動を起こしている人に対してアンチばかり唱える人たちは否定するべきというスタンスをとりたい」とTaiTanはインタビューにて話している。これも、トラックにおけるサンプリングと同様、既に構築されたシステムを理解したうえでこれ対し異議や違和を唱え、発言することを肯定する思想だと考えられるだろう。

また、オートマチックに発生する単語を羅列することで、あからさまにこの考えをアウトプットしなくとも、ナンセンスな“ ズレ ”やギャグ、ささやかな反抗となって無意識が表層へ浮き彫りになる。と彼らは考えているそうで、例えば、2019年リリースのアルバム『Dos City』の収録曲「EPH」に「平和ボケの中で溺れ死ぬ ideology」「You stupid 勝手にしやがれ」というTaiTanのリリックにその意識は垣間見える。

また、同アルバム収録曲「マフィン」では「時間にはルーズ but それでパーフェクトなタイム感」と語っているように、既定のルールや縛りをメンバーの没は嫌う。

先日PVが公開された「スキゾインディアン」のタイトルは、浅田彰の著書「逃走論」に登場する“スキゾ”に由来しているが、この“ スキゾ ”はひとつのことに執着せず、幅広く様々なことに興味を持ち、その時その時の状況や自分の判断に行動を委ねる流動的な人を意味している。音楽に対しても時間に対しても“ フリー ”な没は、どんな事態にも順応することができる“ スキゾ ”そのものなのかもしれない。

 

 

逆境は革命を起こすチャンス

2020年3月にリリースされたシングル「Rojo」はスペイン語のrojo(ロホ)に由来しており、“ 赤 ”という意味。赤は共産革命の色であり、「日本人なら篭城(ロウジョウ)と読み間違うのでは」と荘子itは話している。

「日本人なら篭城を連想する」つまり、鮮烈で衝撃的な立て篭り事件、浅間山荘事件のような事件を思い起こすかもしれないと、彼は語っているのだろう。赤や共産、正義や篭城など様々な要素から成るこの楽曲「Rojo」は、コロナウイルスにより望まぬ籠城を強いられたアーティスト達へ、また革命を志す者へ、実は平常時こそ非常事態であり、逆境である今こそが革命の時だと、闇と光が表裏一体であり捉え方次第だということを示唆するようなリリックになっている。

マーク・ロスコに始まり、浅間山荘、共産党、アフラ=マズダなどといった既存のシステムや過去の遺物を楽曲内にランダムに散りばめ、それらを時に肯定、時に否定しながら、リスナーにも、深層に閉じ込められ、普段は目を覚ますことのない“ 捻れた ”、“ ズレ ”の視点を提案する。まるで「今こそ立ち上がる時ではないか」と語りかけているようだ。

因みに「Rojo」の正しい読み方は“ 朗報 ”だそう。コロナウイルスの流行により、閉じてしまった日常や縁遠くなってしまった外の世界、重苦しい空気。そんな暗い現状をコペルニクス的転回(物事の見え方を180°変える)で逆の視点から捉え、励ますような楽曲になっているわけだ。

 

奇想天外なアイデンティティ溢れる新世界へ

メインストリームや既存の価値観・システム、同調的な風潮といった既存の型に塗れている世の中から逸脱することで、リスナーだけでなく自身をも驚かせ続けるDos Monos。

それらが、過去の遺物を脱構築するDos Monosという唯一無二のスタイルを生み出している。彼らはこの先、一体、どんな世界を見せてくれるのだろうか。

Credit

Writer : kozukario

1998年生まれ。美術、映画、哲学、文学、音楽、ファッション、アニメなど多趣味。カルチャーオタクです。マイブームは睡眠時に夢(無意識)を見ることと、ロンドンナショナルギャラリーの公式サイトで作者不明の作品を漁ること。

 

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