Rolling Stones
May 13, 2020
NY・ブルックリン出身のラッパーTekashi 6ix9ine(テカシ・シックスナイン)はなぜこんな状況に陥ってしまったのだろうか。
「タトゥーもなければ、虹色の髪もなかった。あいつは部屋の隅に座っていた普通のカメラマンだった。」同郷出身のラッパーDave East はNYで彼に初めて出会った日を回想する。
メキシコ系の母、プエルトリコ系の父の間に生まれたTekashi 6ix9ine、本名Daniel Hernandez(ダニエル・ヘルナンデス)は小学3年生の時、実の父と別れ、2010年には義理の父を銃事件で無くし、その影響から幼いながらPTSD(心的外傷後ストレス症候群)を患うなど過酷な少年時代を過ごしてきた。その後、非行から中学を追い出され、アルバイトやドラッグ・ディールで生計を立てることを余儀なくされた。
そんな彼が2017年、「Nine Trey Gangsta Bloods」というギャングに加入したのは、ラッパーとしてのキャリアを成功させるためであったと言われている。ラッパーとしての活動を2014年から開始し、2016年頃に東欧を中心にソーシャル・メディア上で注目を集め始めていた彼は、自身にはラッパーとして「世界中の人が注目するような刺激」が足りないと考えていた。彼は例のスニッチを行なった昨年の一連の裁判中にこう語っている。
“ ギャング・メンバーたちとのMVの数々は成功のための方式だった。ギャングに加入することで、キャリアを手に入れた。ストリートの信用性を手に入れたんだ。- The NY Times ”
こうして普通のカメラマンだった青年は「6ix9ine」へと変貌した。彼が「69」の文字を顔に刻み、髪を派手な色に染め上げたのも当然ラッパーとしてのキャリアのためだ。しかし、ストリートからの信頼を求めてギャングに加入する決断が今、彼の命を脅かしている。
先日、コロナ・ウイルスの拡大に伴い、条件付きの釈放を命じられたTekashi は出所後すぐにシングル「GOOBA」をリリース。MVは記録的な再生数を叩き出したが、その裏で彼は挑発的な言葉と、スニッチ(裏切り)を正当化する言葉を並べ、さらにギャングたちや世間の反感を買っている。勿論、どこまでが本当で、どこまでが嘘かはわからない状況だが、彼はこのように自身の言動の原因を語る。
“ 説明させてくれ。ストリートの掟があるのはわかってる。忠誠心とか、そういうことさ。裏切りはタブーだって当然理解してる。でもさ、俺の子の母親と寝るやつに忠誠心はあるのか?俺を殺すために盗聴器をつけて捕まるやつに忠誠心はるのか?俺の母さんを誘拐しようとしたやつに忠誠心なんてあるのかよ?俺の金を何千万も盗んだやつに忠誠心はあるのか?そんなのどこにあったんだよ?どっちが関係を破綻させたのかは明確なはずだ。
俺が悪いことをしたか? 俺の子の母親と寝るやつに忠誠を誓えってか?俺を誘拐して殴り倒したやつに忠誠を誓うのかよ。俺がスニッチした理由もわかるだろ。でもみんな理解したがらないんだ。”
法廷の証言で自身の拘束前から「Nine Trey Gagnsta Bloods」は内部崩壊が起こっており、メンバー同士の抗争が起こっていたことをTekashi は明かしている。彼はその高給をギャングに還元しており、幹部からは強力な支持を手にしていたものの、その特殊な立ち位置に一部のメンバーからは恨みを買っていたそうだ。そこに内部崩壊が起きたことで、恨みを抱えていたメンバーは誘拐などの強硬手段によりTekashi から金を巻き上げた。彼が「スニッチ」を正当化するのは、元々ギャングが内部崩壊しており、自分こそが先に裏切られたと考えるからだ。
ラッパーとしてのキャリアを築こうと、可能な限りの手段を尽くしてきたTekashi。勿論、彼が犯した数々の違法行為(性犯罪・殺人未遂)は許されない行為だが、彼もまた厳しい少年時代を送ったことで、そこから抜け出すために富と成功を追い求めざるをなかった被害者である。
今、彼は取り返しのつかない状況に陥ってしまっている。世界中から注目され、逃げることもできず、何度住まいも変えても、彼の命までもをエンターテイメントとして消費するリスナーに特定され、晒され続ける。キャリアを手に入れるために加入したギャングへのスニッチで命を狙われる彼は、成功し、裕福な暮らしを夢見る、NYに住む普通のカメラマンだった。
CAPITAL ETXTR
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