IMPOSE MAGAZINE
MARCH 10 2020
Written by ヨシダ アカネ
Edited by SUBLYRICS
晴れた日の昼下がり、太陽の香りを吸い込みながら街を眺める。
KOTA the Friend の音楽を聴いているとそんな情景が目に浮かぶ。光の粒がそのまま音になったようなピアノやギターの音色と、小気味いいビートが跳ねるトラックに、Drake, Logic, Lou Phelps あたりの声質だろうか、ややしゃがれた人懐こい声で、気持ちいいフロウのラップがのる。
本記事ではニューヨーク・ブルックリン生まれのラッパー、KOTA the Friend にフォーカスし、彼の魅力に迫ってみたい。
(Youtube)
Kota the Friend…
1992年10月16日生まれ、ニューヨーク・ブルックリン育ちのラッパー。
幼い頃からトランペット、キーボード、ギター、ベースなどをプレイ、2016年から3年間で3作のEPをリリース。昨年には待望のデビュー・アルバム『Foto』をインディペンデントでリリース。リリースから30日以内で2000万回以上のストリーミング再生を記録するなど、そのあたたかみのあるサウンドは世界中から支持を獲得している。最新プロジェクト『Lyrics to Go Vol.1』も今年1月に公開されたばかりだ。
昨年リリースされたフルアルバム『Foto』には、彼の家族一人ひとりのストーリーが語られるインタールードが挿入されている。ところどころにKOTA自身のものと思われる笑い声が漏れ聞こえるので、もしかしたら実際のやりとりを録音したものなのかもしれない。この他にも ” Solar Return “, ” Mommy ” , ” Retirement Plan ” など、家族をテーマに扱った楽曲は数多く存在する。
家族の他に、女性について歌った楽曲においてもまた、彼の巧みな人物描写が光る。
“ She had a trench coat. Cement 3’s.
With a hot cup of tea and a FADER magazine
With some light blue jeans. Real crown like a Queen.
And a mac air but it aint the one she had last year.
Wednesday, 1 o’clock. She don’t really got a job.
She do her own thing. She ride her own wave.
Only 20 people on the gram that she following.
Only post work. She aint tryna be a model chick. ” – She [1]
今年1月にドロップされた最新アルバム『Lyrics to Go Vol.1』に収録されている ” She ” は、ある女性について丁寧に描写していくだけのシンプルな楽曲なのだが、KOTAのフィルターを通して描かれる ” 彼女 ” は、不思議と魅力的な女性に映る。KOTAの人物描写には、彼の持つあたたかい眼差しが反映されており、それが先述したサウンドのあたたかみと共鳴する。
先ほど家族の描写について触れたが、中でも息子の存在は彼にとって、とてつもなく大きなものである。
“ Oh, he’s my biggest inspiration! [When] he was about to born, that’s when things came off the ground for me. I wanted to make sure that he was taken care of. I didn’t play any games after he was born. He loves me, loves to be near me. So it takes sacrifices when I go on tour and things like that, but I stay on my path because I know he needs me. That really keeps me away from all the negative things that don’t serve me. He keeps me grounded. He keeps me on the right path. ” [2]
これはDJ Boothのインタビューにおいて、彼の音楽に息子がどれくらい影響しているかという質問に対するKOTAの言葉である。息子という存在が、彼に多大な影響と充足感を与えていることがわかる。『Foto』収録の ” Full Bloom ” のリリックを見てみよう。
“ Hey, young blood.
Come here. Let me talk to you.
I seen you grow up all Your life around here.
Never said 2 words.
But I aint got be here forever.
You done come up And this your block.
Your daddy own that house. My mama own this one.
This your hood.
Make sure you taking some FOTO’s man
Before you know it
it won’t Be the same. I’m telling ya.
Nuff with all that.
You gon be the one that all these young Cats look up to.
So be careful how you move.
They watching you like a hawk man
It’s your turn to rise up. . . . It’s on you.
So what you gon do with it. ” – Full Bloom
イントロのリチャード・パーカーによる語りの部分である。同じブロックに住む少年少女に向けられた「近所のおじさんからの言葉」と解釈できるだろうか。父から息子への手紙の形式で綴られるタナハシ・コーツ*のベストセラー『世界と僕のあいだに』を彷彿とさせるリリックだ。同書では、アメリカの史実やコーツの実経験を回顧することで、黒人の肉体を持って生まれたことの意味や、黒人としてアメリカで生きるとはどういうことかといったことについて、コーツ、彼の息子のサモリ、そして読者が共に考える作品である。
” Full Bloom ” では客演のパーカーの声を借りていたが、アルバム終盤ではKOTA本人が黒人少年たちに向けて、生き方についてとつとつと語る楽曲、その名も ” For Colored Boys ” がある。彼の息子も含まれる ” Colored Boys ” に対するメッセージの多くが、黒人コミュニティ内で助け合うことや、感謝とリスペクトの精神を持ち謙虚に生きること、生活や周りの人々を大切にすることなどを促す教示的性格を持つものである。しかし、楽曲終盤でリリックの様子ががらっと変わる。
“ Get to scrubbing when you make a mess.
And treat your daughters same as your sons.
We growing outta double standards.
Speaking of standards
lets move away from the European.
Tell her she’s beautiful.
Wide nose, coarse hair, brown eyes, brown skin, self love for the win.
Why conform to a society that hates you.
Spent all they energy tryna break you.
And now they thinkin yall n*ggas still here?
Yeah and yall still scared.
Black boys still strong, slavery still here, black boys still marked.
The prisons is still packed with innocent black boys.
The black boys still thrive.
The black girls still GOD.
Yeah. ” – For Colored Boys
この部分以前のリリックは、自分たちの生き方や内面と向き合うことに主眼を置いた内容だったが、ここでは家父長制(treat your daughters same as your sons)やダブルスタンダード(We growing outta double standards)、西洋的価値観の押しつけ(lets move away from the European)を暗に批判し、KOTAの視点が外側(黒人コミュニティ外)の人間によって作られた規範や制度に向いていることがわかる。黒人の美しさや逞しさを再定義したり、 ” still ” という言葉を多用し好転しないあらゆる状況を浮き彫りにしたりすることで、黒人を取り巻く諸問題が一気に相対化され、「内面」と「システム」という二つの軸が顕在化する。
黒人が直面する困難(主に人種差別問題)に対するアプローチとして、生き方や心の持ちようを見つめ直すことで回避するという「対症療法的なもの」と、システムや社会構造そのものを批判し改革を目指す「原因療法的なもの」がある。KOTAは ” For Colored Boys ” の中で、そのどちらもに働きかけて見せた。黒人として生きていく上での困難を嘆くのでなく、事実として冷静に受け止め、どう対処するかという自分の哲学を、複数の角度から語るKOTAの手腕は見事である。
半径10メートルの内にいる身近な人々を描写するKOTAの音楽は、「生活感」というぬくもりと、そうした日常の中に溶け込んだ「生きる」上での哲学を与え示してくれるのである。
[1] 本稿に引用する歌詞はオフィシャルミュージックビデオのものを参考にした。
[2] Donna-Claire Chesman, “KOTA the Friend Interview: Growth, Depression & New Album ‘FOTO’,” DJBooth, May 15, 2019, https://djbooth.net/features/2019-05-15-kota-the-friend-foto-interview-growth-success-depression. Accessed March 1, 2020.
* タナハシ・コーツ (Ta-Nehisi Coates)…
1975年、元ブラックパンサー党員のポール・コーツを父としてボルチモアに生まれる。アメリカ黒人への補償を求める2014年のカヴァーストーリー “The Case for Reparations” でいくつもの賞を受ける。2008年に回想録 The Beautiful Struggle を出版。2015年の本書 Between the World and Me は、全米図書賞を受賞、全米批評家協会賞・ピューリッツァー賞のファイナリスト。アフリカン・アメリカンの代表的知識人の一人として信頼を集めている。
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