May 12, 2022
“ 最後にアルバムをリリースしたのは2019年だった。その時はしばらく作品はリリースできないと思った。でも色々な人がアドバイスをくれた。アドバイスをもらうのは良いことだよ。マネージメントやホーミーたち。どんな人からのアドバイスでもね。- YEEK ”
カリフォルニアの午後。アーティストの Chris Cadaver とドロップトップでドライブをしながら Yeek は語る。リラックスした2人の会話には、ジャンルの境界線を押し広げ、制作を行ってきた彼らの開かれたマインドがよく表れている。
Valencia: A Conversation w/ Yeek & Chris Cadaver
昨年リリースされた最新アルバム『Valencia』のプロダクションもその精神に則り、様々な要素をミックスした一作となっている。モダンなTrap・R&Bのサウンドを基調としつつも、作品を退屈にさせないのは「3000 Miles (Baby Baby)」のようなユニークな楽曲の存在があるから。形式通りの“R&Bのサウンド”では聴きなれないエレクトロニックな音を取り入れながら、彼のトレードマークの一つであるLAバイブスなリラックスした仕上がりが両立されている。(Chris Cadaver とのドライブで映っていたヤシの木の風景が頭に浮かぶ。)
「Back N Forth」のような一見シンプルなTrapビートの中にも、エレクトロニックなシンセサイザーの音が隠れていたりと、従来のジャンル領域のこだわらない彼のクリエイティブが『Valencia』では存分に楽しめる。
i-Dによるインタビューで彼は自身の音楽をこのように説明している。
“ 「ポップの世界の音楽」といつも言うんだけど、音楽的にはオルタナティブや、オルタナ・ロックから影響を受けているんだ。LAという場所も初期の私の作品には大きな影響を与えているよ。ここに引っ越してきた時、まるで映画の中にいるみたいだったんだ。だからこそ、何かを作るときには、映画も大きなインスピレーションになってる。私のことをラッパーと言う人もいるけどね。それはそれでいいんだ。ラップは私が演奏できる”楽器”の一つだから。だけど、私はシンガーだよ。私のゴールは「すぐにポップだとはわからないけど、多くの人に受け入れられるものを作る」こと。- YEEK ”
映画からのインスピレーションを公言する Yeek の作品は音楽にとどまらない。『Valencia』のリリース時には、「h.a.w.a.i.i.」 と題されたショート・フィルムを監督し、これまでのMVのディレクションにも携わっているという。こうした形式にこだわらない表現をし続けるのも、彼を追いかける1つの理由だ。(今後、長編映画を作ることも彼の目標の1つだそう。)ジャンル・レスな音楽を作るアーティストとして Yeek のサウンドがより多くの人に共鳴されるのは時間の問題だろう。『Valencia』を聴けば、きっとみんなも頷くはず。
" オレンジの中にヒントがあった。"
YEEK
“ 「Valencia」というコンセプト(カラー)は間違いなく、フロリダにインスパイアされた。子どもの頃、私のお気に入りの色は黄色だった。尊敬していた父親が黄色を好きだったから。成長した後は、赤色が好きになったんだ。赤は君の好きな色でもあるよね(Chris Cadaver に向けて)。だからフロリダの自宅のテーマは黄色と赤に満ちていた。
その後、カリフォルニアに引っ越したんだ。1年ほど過ごした後、自分のお気に入りの色が”オレンジ”であることにふと気付いたんだ。赤と黄色を混ぜた色でしょ。ちょうどその時、私はブラウニーを食べてトリップしてね。全く吸わない時期が1年もあった状態で、かなり強いブラウニーを食べたから、サイケデリック・トラップに一直線。そこで音楽を聴いたら、頭の中にオレンジ色がふと現れたんだ。かなりハイだったから、なんとか現実に戻ろうと、頭から水を被ったり、感覚を取り戻そうと、ソファーをパンチしたり(笑)。
あまり思い出せないけど、その翌朝から毎日、日記を書き始めたんだ。本も読み始めたね。Carl Segan の「Cosmos」、村上春樹の「海辺のカフカ」、Alex Huxley の「Endorsed Perception」。とにかく、そのタイミングから私の新たなお気に入りのカラーは「オレンジ」になった。そこにクリエイティビティのオーラを見出すようになったんだ。自分なりの解釈は、黄色ほどに明るく、ハッピーなわけではなく、赤色のように力強くもない。ちょうど中間の色。これまでの全てのキャリアを通じて、オレンジというカラーは私のテーマだった。オレンジの中にヒントがあった。それにフロリダの「Valencia」というエリア、コミュニティにも影響を受けた。生まれ育ったフロリダ南部の地名なんだ。今作を作り終えた後も Valencia に住んでいたし。全ての辻褄があった気がしたんだ。- YEEK ”
Text : Shinya Yamazaki(@snlut)
Yeek『Valencia』
Release Date:2021.03.19
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