ローカル・タウンから現れたUKラップの新星 Sainte を知る

May 5, 2022

Jorja Smith、Little Simz、Skepta、Dave、AJ Tracey…。多くのUK出身アーティストが世界を席巻している。ただし、その多くは中心部であるロンドンに集中しており、特にヒップホップやR&Bジャンルにおいて、イギリスの”地方”に目立つ存在は多くない。UKラップの新世代として台頭している Sainte が「ローカル・MVP」を名乗るのは、数年前にプレミア・リーグを制したFoxesを擁する地方都市レスターをバックグラウンドにしているからだ。

2019年に1stシングル「Envy Me」をリリースして以降、未だ2枚のEPのみが彼のディスコグラフィーだが、既にSpotifyのリスナーは160万人を超える。未だドリル/ガラージ/グライムのイメージが根強いUKラップだが、彼のスタイルはより柔軟でシルキー、そして洗練された印象で、ステレオタイプなUKラップのイメージを覆す。Jet Life のようなレイド・バックしたラグジュアリーなスタイルと、UKラップならではの抑揚、ビートにピッタリと合わせる肩の力が抜けたラップのブレンドは最高にフレッシュだ。

ただし彼を影響するのはLAのストーナー・サウンドだけではないのは明白だ。 Tay Iwar や A2、Knucks のような、同郷のダンスホール、UKドリルの世界で輝くアーティストたちとの共演作を聴けば、彼の音楽的な柔軟さにもより頷ける。

大学での学業とセミ・プロとして活躍していたバスケット・ボールを両立させていた Sainte は3枚目のシングル「Champagne Shots」のヒットから真剣に音楽のキャリアを歩むことを決めたという。それから約1年後にリリースした最新作にあたるプロジェクト「Out the Blue」を中心に、彼の作品について、引用を交えながら紹介していこうと思う。

“ フッドを出て、今は金を追いかけてる
昔は一文無しだったよな、今じゃ笑い話さ
今じゃリッチになって、あいつも金をせがむ
姉さんがここにいたらな。きっと誇りに思ってくれるはず
俺は名声のためにやってない。今は金が欲しいんだ
仲間たちはハードに働いて、ママたちは彼らを誇りに思ってるよ “

YOU NEVER - SAINTE

「Out the Blue」に収録された「You Never」は Sainte 本人も「1番のお気に入りの曲で、最もパーソナルな楽曲」と語る1曲だ。生まれ育った環境と、家族、仲間、彼の身に起きた幸福と不幸が語られており、アウトロでは「この作品はただの音楽以上のもの」と綴られており、自身のパーソナルな経験を昇華したアートを制作していることがよく伝わってくる。実際に「You Never」のMVは家族や仲間との記憶をフラッシュバックしたような内容になっている(レスターの実家で撮影されたそう)。 

突然に(Out the Blue)地方都市から登場したラッパーはレスターという出自を非常に重要視している。EPの3曲目「03’」は彼がレスター、そしてイギリスに移り住んだ年のことである。(また、前作「Local MVP」のジャケットもLとC(Leicester City の略)を象徴的に表している。)

自身のルーツを省みる繊細な表現だけでなく、A2 と Knucks を迎えた「Summer Is Blue」のようなマイクリレーや、シンガー Miraa May とのダンサブルな「No Love」のように複数のジャンルを跨いだ、エキサイティングな楽曲もEPには収録されており、7曲20分という収録時間ながら、非常に聴きごたえのある内容になっている。彼自身、Pharrell Williams と The Neptunes の大ファンであると明言しているが、EPのバラエティに富むサウンドは彼らの持つユニークなクリエイティビティに影響を受けたのだろうと想像できる。(MVでも Billinaire Boys Club の Varsity Jacket を着用している)

2022年にも新たなプロジェクトをリリースすると公言している Sainte。過去の2作品はもちろん、今後のプロジェクトも必ずチェックしてほしい。

“ 2022年はよりクリエイティブに、よりパーソナルに、より繊細な Sainte を届けるよ。間違いなく Sainte はこれから成長する。"

SAINTE on COMPLEX

Credit

Text : Shinya Yamazaki(@snlut

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