June 20, 2022
Kendrick Lamar のニューアルバム『Mr. Morale & The Big Steppers』のリリース以来、Duval Timothy(デュバル・ティモシー)の作品に夢中になっている。作中に登場する特徴的なピアノの多くが彼の仕事で、アルバムのテーマ性やリリックだけでなく、そのサウンドに意識を向けた人も少なくないだろう。
Kendrick Lamar というビッグ・アーティストの作品を手掛けながらも、彼の音楽はミニマルで、少し掴みどころのない感覚を覚える。常にLow-Keyなテンションで、不安定なリズムが鳴っているのだけど、その不安定さは、言葉通り”不安”をもたらすのではなく、むしろ落ち着きを感じさせる。彼の音楽と感情の結びつきを簡単に言葉にはできないが、自分自身の中にある不安や恐怖といった感情が、その不安定さや独特のリズム感に同調しているのかもしれない。爽快さを求め『Funk Wav Bounces』を真夏日に聴きたくなるように、発散を求め『good kid, m.A.A.d city』を真夜中のドライブで聴きたくなるように、どことない不安に対しての癒しを求めて彼の作品を聴きたくなる。ケンドリックがセラピー・セッションとも言える新作で彼の演奏を取り入れたのも、似たような理由があったのかもと思う。
サウス・ロンドンと、シエラレオネはフリータウンの2都市を拠点にする彼は、2017年には鮮やかな黄色が光る「Sen Am」、2020年には手を重ね合う「Help」、昨年にはシンガー Rosie Lowe とのジョイント・プロジェクト「SON」と、既に3枚の音楽アルバムをリリースしている。「マルチ・アーティスト」と形容されるだけあって、その活動は多岐にわたり、色彩豊かなペイント、コンテナでのフットボール・イベントの開催、祖母から教わったレシピで作ったジンジャー・ビールの販売、ランニング・トラックの素材を再利用した運動靴のデザインなど、自由な発想で活動を行なっている。
Le Foot
https://duvaltimothy.co.uk/
Paintings
https://duvaltimothy.co.uk/
Ginger Beer
https://duvaltimothy.co.uk/
中でも2011年から2016年まで行なっていた、Folavemi Brown、Jacob Fodio Todd との共同フード・プロジェクト「The Groundnut」は彼が最も力を注いでいたアイデアの一つだろう。イギリス・ガーナ・ナイジェリア・シエラレオネ・南スーダンに背景をもつ彼らのアイデンティティの探求を目的に、2か月に1度、サウス・ロンドンにて彼らがアレンジしたサハラ以南の郷土料理をふるまうディナーを行なっていたそう。夕食会では、食事メニューはもちろん、空間・家具・食器・ドリンクメニューまで彼らがデザインするなど、総合的な体験を提供していて、ロンドンに住む人々にとっては、ときに新鮮で、ときに懐かしい体験だったに違いないと思う。
このプロジェクト「The Groundnut」はアルバム「Help」の収録曲のタイトルにもなっていて、幾つもの活動が交差する彼の世界観が楽しめる。この楽曲は彼の作品の中でも珍しいダンスホールのサウンドを感じる一曲で、活動そのものとのシンクロも感じる。
「The Groundnut」も活動停止しているように、現在は音楽制作に注力しているようだが、今後も彼のこうしたマルチな活動には目を離せない。彼のウェブサイトでは、過去の活動がまとめられているので、気になる方は音楽と合わせて、ぜひチェックしてほしい。
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