「プレイ中に何を考えてる?」Nicola Cruz はどのように空間をキャッチするか / Interview

March 1, 2023

Nicola Cruz の作品やプレイにはいつもそわそわとさせられる。何処かはわからないが、神秘的な場所に連れていかれたような気分になり、少し身体がふわつく。先日リリースされたEPも例に違わず、軽快でありながらディープで、私が普段見ている景色とは違う、彼の世界に連れて行ってくれる。(EPのタイトルは「Arpejos Da Floresta」直訳で「森のアルペジオ」)。昨年10月に渋谷 WOMB で行われた COMPLEXSTOREアニバーサリー に出演後の彼に、インタビューをする機会をいただいた。

NICOLA CRUZ

エクアドルを拠点に活動するDJ・プロデューサー。自身のルーツである南米の伝統的なサウンドと、モダンなエレクトロニック・ミュージックのブレンドをシグネチャーに活躍している。これまでにプロデューサーとしてRhythm Section、ZZK Recods などから9つのEP/アルバム、DJとしても数々のギグに出演、昨年11月には「fabric」シリーズとしてMixアルバムもリリースしている。 

どんな話を聞こう、と頭の片隅で考えながら向かった渋谷・Wombでの彼の選曲には少し驚いた。というのも、これまで自分が動画越しに見たことのある彼のプレイは、知る限り日本にはないような大自然に囲まれたものだったから。人に溢れた真っ赤なフロアと、ミストが漂うアルゼンチンの大瀑布の前でのプレイの差に驚くのも、今思えば恥ずかしい話だが、正直なところ、その強烈なイメージと、彼の作品のシグネチャーでもある民族的なサウンドが頭から離れなかったのだ。空気、元々そこに流れる音、サウンド・システム、オーディエンスとの関係、色々なことを頭に巡らせながら曲をセレクトするわけで、Wombでの選曲がそれらと異なるのは当然だったとも今なら思う。でも同時に、その”違い”が気になった。彼はどんな風に目の前の環境を受け止めて、セットを決めていくのだろうか。

様々な環境下でのDJ中に何を考えているかを尋ねると、彼は2016年に亡くなった電子音楽家ポーリン・オリヴェロスの著書「Quantum Listening」をヒントとして教えてくれた。この本の一部には「ある空間に存在している音は無秩序ではなく、細かな粒子のように相互に関連しあっている」といった内容が書かれており、どのように外的な環境に耳を傾けるかのメソッド(Deep Listening)を教えてくれる。詳しくは本を読んでみてほしいが、大自然であれ、クラブであれ、何よりも自分の今いる空間と、そこにある音場に耳を傾けることを第一にしているということだ。どんな風に空間に耳を傾け、自分自身が参加するのか。私もその内容をまだ咀嚼しているところだが、この本を読むと彼のセレクションと、このインタビューでしてくれた回答がより腑に落ちた気がした。

また、彼は楽曲制作においても、訪れた土地、自然から特に影響を受けていると語っていた。日本/東京の土地、空気、人は彼の目にどんな風に映ったのだろうか。DJをしているときに感じていること、Wombでのプレイについて、最近リリースした作品について、いまお気に入りのレコードなど、友人のHayateと共にテキストでいくつかの質問を投げかけた。- Text by Shinya Yamazaki 

日本へようこそ!あなたはショーの数日前には現地に到着して、その街を散歩すると聞きました。東京は楽しみましたか?この街と人、空気、食べものはあなたにとって、どんな風に映りますか?(Shinya)

ハイ!このインタビューに答えているのは、日本を訪れてから1ヶ月後なので、自分の経験をうまく消化できた頃だと思います。どの国へ行っても、ギグの数日前には現地に到着し、少しゆっくりして、集中を高めます。初めて訪れる場所なら尚更。東京に関しては2019年以来だったので、近くを歩いたり、友人と再開しながら、変化(変わらない部分も)を感じられて良かったです。私が東京を好きな主な理由は、普段過ごすカルチャー、見ている景色と大きく違うからだと思います。それはある種、自分にとってのチャレンジでもあり、そのフィーリングが本当に好きなんです。(Nicola Cruz)

PHOTO : MASANORI NARUSE

東京でのプレイを拝見しました。プレイ終盤の流れがドラマチックで、自分も最高に楽しみました!私の尊敬するアーティストが「ショーはオーディエンスと一緒に作るもの」と言っていて、その考えに共感しているのですが、当日の会場からのバイブスをどう感じましたか?また何を考えてプレイをしていましたか?(Shinya) 

まさに。私もショーはオーディエンスと一緒に作るものだと思います。あの夜は最高のフィーリングでした!WOMB でのプレイは初めてで、前日の夜にオーディオ・エンジニアと打ち合わせをしたんですが、彼が上手くシステムを調節してくれたこと、日本のサウンド・カルチャーの質の高さのおかげで自信を持ってプレイできました。
リラックスと自信、そして良い音響を持って臨めたので、最大限、プレイ中は自分のセレクションを広げることに集中できました。そのおかげで、ドラマチックな展開と、よりディープな体験が生み出せたんじゃないかと思います。

以前のインタビューで、自身の訪れた自然や土地からインスピレーションを受けると話していましたが、最近行ってよかった場所、影響を受けた場所はありますか?(Shinya) 

今回は沖縄にも少しの間滞在したけど、本当に美しかったです。また行きたいし、ヤンバルを探索したいです。ダイビングもできたらいいな!

" 自然の中でのプレイは、より深いリスニングや、ポーリン・オリヴェロスがいうところの「Quantum Listening」に目覚めさせてくれると思います。"

NICOLA CRUZ

あなたが最近リリースしたEPも、あの会場のような音響で聴くのが待ちきれません。PCの前で音楽を作るプロセスが、DJプレイに影響を及ぼすことはありますか?逆もしかり。(Shinya) 

マシーンで音楽を作ることが多いから、全てをPCで行うわけではないんです。コンピューター上の作業は仕上げのミックスくらいなので、自分のこの手で作っている、という感覚はあります。

DJと制作は異なる経験で、DJをするときは完全にセレクターとしてのモードに入って、お気に入りのレコードをセレクトすることに集中します。逆にダンス・ミュージックを作るときはDJからも影響を受けていて、好きなレコード、ビート、ハーモニー、雰囲気から、自分自身の音楽に確かな影響があると思います。

壮大で美しい自然を前にDJをプレイをするあなたをYouTubeで見ました。アルゼンチンの滝だったと思うんですが。DJ中、人や自然のような外的環境からの影響をどのように感じますか?人前でプレイするとき、大自然を前にしたときに、あなたが感じていることを教えてください。(Shinya) 

きっとイグアスでのライブのことですね。自然の中でのプレイは興味深くて、より深いリスニングや、ポーリン・オリヴェロスがいうところの「Quantum Listening (量子リスニング)」に目覚めさせてくれると思います。それと(どんな環境でも)「どんなハーモニーが今の環境に共鳴するか」ということは、いつも考えていますね。

EP「Self Oscillation」に収録されていた「Cadera」はトリニダード・トバゴ発祥のカーニバルミュージックのSocaとグリッチをミックスした一曲でした。Socaとの出会いを聞かせてほしいです。(Hayate)

Soca Cadence は Tumbado とも呼ばれていて、ラテン・アメリカのあらゆるところで聴かれています。音楽的な重力を感じさせるベースや、キック・ドラムのように、”沈む”ような感覚を持っているので、別の次元、クオンタイズされていない歪んだ場所に身体が引っ張られるような感覚になるサウンドだと思います。それを自分の音楽に入れ込むのがとても好きで。グリッチも同様に私の音楽の一部です。

このEPはSOCAやコンガなどのオーガニックなサウンドとエレクトロニックなダウンテンポなサウンドがまるでゆりかごのように揺れる様を想像しました。タイトルである「Self Oscillation」にはどのような意味が込められていますか?(Hayate)

「Self Oscillation」というタイトルにしたのは、音楽を制作するときに、私自身が瞑想のような状態に入るからです。自分の思考と音楽の間で揺れ動いている(oscilate)ような状態です。目を閉じ続け、方角もわからなくなるような集中状態なので、浮いているような感覚にもなるのだと思います。

" ガラパゴス諸島はマストだと思います。信じられない場所で、自分がどこから来たのか、今どこにいるのか、そのヒントをくれる場所。"

NICOLA CRUZ

過去に出演したThe Lot Radioのプレイでヴェトナムにルーツを持つOnraの「Pearl Song」をセレクトしている回がありましたよね。普段、音楽を視聴するときには異国の民族音楽にも目を向けることは多いですか?(Hayate)

国内外問わず、たくさんの音楽を聴きます。けど、コレクター、そして音楽家としては、広い視野を持つことはナイスなことだと思います!

また The Lot Radio についての質問をしてしまいます。(大のリスナーで。)8月に出演していた回ではヴァイナルでプレイしていましたね。ミニマルからアシッドまでエレクトロなセットが最高でした。データと、ヴァイナルでのプレイはどのように使い分けていますか?また、最近お気に入りのレコードがあれば、教えて欲しいです!(Hayate)

好みはやはりヴァイナルです。ツアー中は必ずしも持ち運ぶのが難しいことがありますが、ライブ用のギアを持ち運んでいます。ギア1つでとっても多くの曲を持ち運べるからね(笑)。最近のお気に入りは HAKUNA KLALA の Afrorack です!

あなたの音楽を聴いていると、どこか神秘的な奥地に連れて行かれたような気分になります。東京という混雑した都市で生活を送る私には、とてもフレッシュな体験で、あなたがインスピレーションを受けた場所に実際に行ってみたいと強く思いました。エクアドルに訪れたら行ってみて欲しい場所はありますか?(Shinya)

そう言ってくれて、ありがとう。ガラパゴス諸島はマストだと思います。信じられない場所で、自分がどこから来たのか、今どこにいるのか、そのヒントをくれる場所。間違いなく、地球上で最もお気に入りのスポットの一つなので、ぜひおすすめしたいです。

Text, Edit : Shinya Yamazaki (@snlut)
Interview : Shinya Yamazaki , Hayate Tanaka (@_studyboi_)
Photo : MASANORI NARUSE (@mnp.hoto)
Big shout out to Eita Godo (@eita_godo) for made this interview happen.

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