BudaSport|東京とLA、二つのグルーヴがぶつかり合って出来たもの / interview

May 10, 2022

ENG VER IS HERE

東京のアンダーグラウンドヒップホップシーンを代表するDJ/ビートメイカーの BudaMunk と、LAを拠点に Nas や Hit-Boy、Benny The Butcher、Freddie Gibbs などさまざまなラッパーのビートを手掛け、名門レーベル・DeliciousVinyl からアルバムをリリースするプロデューサー Jansport J。そんな二人による東京とLAを股にかけたジョイント・プロジェクト『BudaSport』が4月20日にリリースされた。

本プロジェクトは2020年に Jansport J が来日した際のセッションにより実現し、2人の生み出すグルーヴが絡み合い、哀愁ただよう雨の日の東京を彷彿とさせるような情緒的な作品に仕上がっている。全15曲で構成されるこのアルバムには日米から多くの客演が参加。USサイドからは Blu や Illa J、Devin Morrison、Slim Jeff 、Like、Thurz、Quadry。日本からは ISSUGI、仙人掌、Mr.PUG、Daichi Yamamoto、5lack、OYG、GAPPER の他、2MCラップクルー・LafLife、京都出身のシンガーソングライター・Ume も参加した。

今回は BudaMunk と Jansport J に2人の出会いについて、アルバム制作について、インスピレーションについてなど、本プロジェクトのバックグラウンドを話していただいた。インタビューの最後では2人によるプレイリストも公開しているので、ぜひチェックしてもらいたい。

Jansport J 氏の来日によって叶ったセッションを元に制作されたアルバムだそうですが、お2人の出会いから、セッションに至った経緯を教えて下さい。

Budamunk : Jansport の事は2010年ぐらいに Planet Asia と Tristateの アルバムで知って、それから彼の音源を結構聞くようになりました。実際に会ったのは2013年にLAに行った時だと思います。その後も俺と JOE STYLES のアルバムを Delicious Vinyl からリリースした時期に、Jansport も Delicious Vinyl から作品をリリースしてたんで、Delicious Vinyl のイベントで一緒だったりしました。LAに共通の友達もいっぱいいるんで、自然に深くつながっていった感じですね。それで2020年、日本に来た時に家で一緒に作ったビートが今回のアルバムになりました。

Jansport J : 初めて BudaMunk と会ったのはかなり昔で、思い出せないくらいです!2012年か2013年に Delicious Vinyl と作品を作っているときに、マイメンの Chily-T(DELICIOUSVINYLのブランドマネージャー/DJ/キュレーター)を通じて知り合ったと記憶しています。初めは彼が日本のドープなアーティストやプロデューサーを教えてくれたんですが、Budamunk の名前は DiBiase を通じてよく聞いていて。それから Budamunk がアメリカにくる時はライブを一緒にやったり、常に連絡を取り合っていました。制作の機会が訪れたのは、2020年に私が東京に来た時で、ライブが終わった後すぐに一緒にビートを作りはじめました。アルバムに参加することになった人たちは、すべて BudaMunk か私のどちらかと関係性のあるアーティストたちです。インターナショナルなアーティストたちの作品を1つのアルバムにまとめることができて嬉しいです。

以前他のインタビューにて拝見したのですが、東京には以前から来てみたかったとお話しされていましたね。Jansport J さんが感じる東京の魅力とはなんでしょうか。

Jansport J :  東京は美しい街です。よく仲間にも「東京は “懐かしさ” と “未来的な感覚” を兼ね備えている」と話しています。ヒップホップ・カルチャーとアートに対する、東京の人たちの繋がり方が大好きです。ファッションは、私が生まれ育ったLAの郊外のトレンドを思い出します。1998年に私の姉が沖縄の軍事基地に住んだのですが、それ以来、ずっと日本を訪れたいと思っていました。

" J Dilla と Madlib が一緒に「Jaylib」を作ったように、プロデューサー同士のコラボレーションアルバムを作りたいと、ずっと思っていました。"

JANSPORT J

プロデューサー同士のコラボレーションアルバムは比較的珍しいように感じました。具体的にどのようにレコーディングを進めましたか?

Jansport J : J Dilla と Madlib が一緒に「Jaylib」を作ったように、プロデューサー同士のコラボレーションアルバムを作りたいと、ずっと思っていました。 Budamunk と僕がやっているように、プロデューサーとして自分の作品を作ることがパワーになる。リンクして何かを一緒に行うことは意味のあることだし、音楽に関しては言語の障壁はありません。良い音なら気持ちいい、それだけです。

Budamunk : 具体的な制作方法は、まず一緒にサンプル聴いて選んで、その後どっちかがドラムかサンプルをチョップしたり。進めたいとこまで進めて、途中で交代したり、お互い足したい音あれば足したりエディットしたりして、完成できました。最後に Jansport がMaschineでドラムやサンプルの抜き差しをして、同時に自分がSP404でエフェクトをかけたりしながら録音しました。お互いNative InstrumentsのMaschineでビートを作っているんで、かなりスムーズに作業は進みましたね。

ビートにラップを乗せるにあたって、日本語のフローや英語のフローで違いを感じたり、ビートを作る際に意識したことなどはありましたか?

Budamunk  : 今回は1曲に日本語と英語が入ってる曲が結構あるんで、ただ単純にこのビートだったら誰が合うかなってだけで決めていきました。

Jansport J : 主な違いは、アーティストがラップしているすべての単語を理解できなかったことですが、そのおかげで音楽はさらに面白くなりました。 プロデューサーとして、私は感覚に頼るのが好きです。 ラッパーのフロウや、彼らの声のトーンがどのようにマッチするかに重きを置くことは、とても気持ちよかったです。

今回のアルバムでは1曲に日米のアーティストがミックスされている曲も多く、その組み合わせが聴いていてとても心地よかったです。それぞれのビートでラップする客演をどのように決めましたか? Jansport J さんは普段から日本のアーティストもよくチェックされているのでしょうか。

Jansport J : Chily-T と BudaMunk がアーティストを勧めてくれて、さらに2020年に東京に来れたおかげで、東京のさらにローカルなアーティストを直接見て、学ぶことができました。ISSUGI が観客を揺さぶるのを生で見ることができたし、 Kojoe と一緒にスタジオで曲を作ることもできました。だから日本の才能を知れば知るほど、私と BudaMunk は、誰がどんな曲に合うか、どんなアメリカのアーティストにマッチするかが提案できるようになったんです。

このアルバムを聴いて、2人のグルーヴがとてもマッチしているように感じました。2人のセッションは、それぞれにとってどのような体験でしたか? 感じた違いや新鮮に思ったこと、逆に共通していると思った部分などあったでしょうか?

Budamunk : お互い近い部分もあるけど、違った独自のグルーヴみたいのがあって。それが良い感じに混ざったと思います。Jansport が作ってるのを見て、そのタイミングで打つんだ、みたいな発見があっておもしろかったです。Maschineで使ってるPlug-inなどを教えてもらったり、色々勉強になりました。

Jansport J : 私も、BudaMunk と私の制作プロセスがぶつかり合うのがとても楽しかったです。初日は、グルーヴとワークフローを納得のいくものにすることだけを考えていました。私がMachineからアイディアを得て、それからBudaがベースラインを追加し、ドラムをワープさせてより感傷的に、グルーヴィーにし、SP-404でエフェクトをかけていく。とにかくいろいろなことを試してみました。科学実験のような楽しさがありましたね。

" もっと向こうのアンダーグラウンドなHIP HOPを、日本の人にも興味をもってもらえるきっかけになると良いなって思います。"

BUDAMUNK

このプロジェクトの中で、もっともエキサイティングだったと感じる瞬間はありましたか?

Budamunk : ビートができた時と、あとバースが乗ったバージョンを最初に聞いた時ですかね。

Jansport J : 今回のプロジェクトの中で印象深かったのは、Kojoe と東京で過ごした一日です。私たちは彼に聞かせたいビートを考えていて、Kojoe のホームスタジオで、彼とそのアイデアに取り掛かりました。それから地元のモールやレストラン、飲み屋などの雰囲気を味わうためにしばらく家を出ました。この1日で感じた東京の雰囲気で、さらに文化への理解が深まり、アルバムに反映させることができたと思います。

今回のアルバムを制作するにあたって、目指したものや、ゴールのようなものはありましたか?

Budamunk : 自分的には Jansport は勿論、参加してくれたUSのアンダーグラウンドのMCを聞いてもらい、もっと向こうのアンダーグラウンドなHip Hopを、日本の人にも興味をもってもらえるきっかけになると良いなって思います。

Jansport J : 今回のアルバムの個人的な目的は、日本のみんなに感謝の気持ちを伝えることです。私のファンになってくれる日本人も多く、彼らにただ「あなたが見えているよ。聞こえているよ。この作品はあなたのために作ったよ。いつもありがとう。」と伝えたかったんです。アメリカのアーティストの多くは、アメリカ国内だけを視野に入れた活動をする傾向がありますが、私は日本を年に2回くらいは創作活動できる場所にしたいんです。このプロジェクトは、そのスタートでした。

今回のアルバムに収録されたビートはどんなところからインスピレーションを受けましたか? Jansport J さんは来日されて感じたことなどもインスピレーションの元になったのでしょうか?

Jansport J : 私は旅先で偶然にインスピレーションを受けることが大好きです。現地に行ったら、写真やお土産以外に、旅の思い出になるようなものが欲しいんです。どこかで思い出を作るのに、そこで音楽を作る以上の方法はないでしょう?

世の中の状況が変わることによって、制作に対するモチベーションやインスピレーションも変化するのでしょうか。ここ数年はコロナウイルスの蔓延や、戦争などのシリアスな問題が多いですが、音楽を制作するに当たっての心境の変化などはありますか?

Budamunk : 基本的には自分がやりたい事を常にやってるだけなんですが、コロナでイベントが減ったので、制作や曲のミックスをする時間が増えましたね。

Jansport J : 本当に全く変化はないです。ここ数年、音楽だけは一貫して、変わらずに制作し続けているといると感じています。セラピーのような感覚です。

これまでに数々の作品をリリースしてきたと思いますが、創造的なアイディアを生む秘訣はありますか? また、新しいことに挑戦し続けるためにやっていることはありますか?

Jansport J : 最近は新しいアーティストと仕事をすることでモチベーションが上がっています。あとは、Nas、Snoop Dogg、Benny The Butcher、Freddie Gibbs など、伝説的なアーティストと一緒に仕事ができるのも幸せなことです。アルバムを隅から隅までプロデュースし、アーティストがプロジェクトの中で「これだ」というサウンドを見つけるサポートをする。それが私にとって、最もやりがいのあること。クリエイティブであり続けるために、そういうことを続けていこうと思っています。

最近気になっているアーティストや、コラボレーションしたいアーティストを教えて下さい。

Jansport J : このアルバムに参加しているアーティストともっと一緒に仕事をしたいです! 大好きな LafLife や Kojoe、5lack、ISSUGI や他のみんなも。今年の夏には実現させたいです。

Credit

Interview & Text : Minori Yatagai(@minorigaga
Edit : Shinya Yamazaki(@snlut

Budamunk & Jansport J 『BudaSport』
Release Date:2022.04.20
Tracklist:
1. Intro (tonite!)
2. Old School, New Design ft. Blu & ISSUGI
3. Make it Happen ft. 仙人掌 & Mr.PUG
4. Callin’
5. Spice ft. Illa J, Devin Morrison & Daichi Yamamoto
6. Can’t Hide It
7. Susy ft. Slim Jeff & Ume
8. Pretty Eyes
9. All Praise Due ft. Like & 5lack
10. Jungles
11. 21’til ft. Kojoe & Thurz
12. PipeLine ft. LafLife
13. Whereva You At ft. Quadry & Ume
14. Tell The World
15. 未来への希望 ft. OYG & GAPPER

READ NEXT

DISCOVERY