j-cole noname snow on tha bluff

URBAN ISLANDS

J.Cole が物議を醸した新曲「Snow On The Bluff」で伝えようとしたこと

June 19, 2020

『2014 Forest Hills Drive』から「January 28th」でJ.Cole(J.コール)はこう語っていた。

“ 窓の外を見れば今夜の街は灯りと喧騒に包まれてる
誰も俺たちの仲間を傷つけないように願う
みんなを本当の兄弟のように愛してるから
お前らも絶対に一緒に連れてくよ
もちろんお前らの母親だって同じだ、自分のママのように愛してるよ
俺たち、行動を起こす必要があるって思うんだ ”

「今夜の街は灯りと〜」は2014年8月に起きたファーガソン事件に対するNYでのプロテストの様子を描写している。コールも当時、事件が起こったミズーリ州・ファーガソンでのトリビュートに参加するなど、人種差別問題、警官による不当な暴力問題に対しての関心の高さは、以上のようなリリックからリスナーにも伝わってきているはずだ。(『4 Your Eyez Only』は、恵まれない環境で育った一人のアフリカン・アメリカンの父親の立場からアルバムの全編を描いている。)

今回のGeorge Floyd 氏殺害の事件から、多くの抗議運動が起こっているが、彼も地元ノース・カロライナのプロテストに参加する姿がキャッチされるなど、これまでに引き続き、ソーシャル上で声を上げずとも、確かに何らかの行動を起こしてきた。そんな中、サプライズ・リリースされた一曲がこの「Snow On Tha Bluff」。2011年に公開された、アトランタを舞台にした映画をタイトルに据えた作品は、ある女性に対しての「アンサー・ソング」の形式が取られ、コールの今持つ、正直な意見が落ち着いたトーンで綴られた一曲になっている。

すでに多くのメディアが報じているが、この「ある女性」とはシカゴ出身のアーティスト / ラッパー Noname(ノーネーム)であるとみられ、コールも作品のリリース後、ツイッターで彼女の名前を挙げるなど、おそらくこの見方は間違っていないだろう。

Noname はGeorge Floyd 氏の事件が起こる前から社会問題、人種差別問題に声を挙げており、今回の件にもその意見を投げかけていた。コールが反応したのは、そのうちの一つについてである。

TWITTER

Noname : 貧困層の黒人はプロテストに参加し声を上げているのに、あなたたちのお気に入りのトップ・ラッパーたちはツイートすらできない – Twitter

今作が「物議を醸している」のは、今曲のリリックに「マンスプレイング(= 男性が女性を見下して説教をしたがる姿勢。女性は知識がないから〜と物を教えたがる男性の姿勢のこと)」や、「トーンポリシング(= 主張の内容よりも言葉遣いや態度などを非難し、議論のすり替えること)的な、表現が含まれていると批判を受けていることだ。特に以下のラインは論争の中心となっている。

“ So when I see something that’s valid, I listen
だからこそ、筋の通った意見には耳を傾ける

But shit, it’s something about the queen tone that’s botherin’ me
けどさ、その「女王ばった口調」が気になっちまうんだよ ”

確かに2文目は明らかにトーンポリシング的な発言に聞こえるし、その対象が「You」ではなく「Queen」と“ 女性 ”を指す言葉であることから、マンスプレイング的な姿勢を取っていると批判されるのも納得できる。しかし、コールが今作をもって伝えようとする意図は、この2文だけでは理解できないことも事実だ。(以上の発言が批判されてしかるべきであることを前提に)以下で彼が伝えようとした意図を筆者なりに読み解いていこうと思う。

“ 彼女は怒ってたよ。白人に、大富豪に、殺人を犯した警察に怒ってた
俺の仲間にも、俺たちの無知に怒ってたんだ
その心の内を正直に打ち明けて
俺には彼女が「コンシャスな環境」に囲まれ育った、恵まれた人間に見えるんだ
奴隷解放についての知識がある両親がいて、彼女はそれを授けられてきた
システムへの考え、認識、そこにある不公平が黒人にどう影響を与えてきたかを理解してる
彼女は自由になるためには必要な、明確な知識を持ってるんだ
多くの人が自分が知っている事実へ辿り着いていないから、その言葉はフラストレーションに満ちている
そのやり方でどう人々を導くんだ?君の言葉を本当に必要としている黒人を攻撃してどうするんだよ? ”

コール曰く、Noname の怒りの矛先は今、「黒人の無知」にも向いていると言う。しかし、そもそも彼女が知識を手に入れることができた、問題に関心を持つことができたのは、恵まれた環境があったからなのではないか。という疑問を彼は投げかける。つまり、彼が指摘した「女王ばった口調」というのは、知識のない多くの黒人に対して、寄り添って説明するのではなく、知識のギャップに怒りを向ける彼女の姿勢のことを指していると予想できる。「恵まれない環境によって知識を身につけられなかった、関心を持つきっかけに出会えなかった人々にとっては、彼女の言葉は理解できないことがある」と伝えたかったのだろう。

そして彼はこの以降のラインで、彼女に「知識を持つリーダー」として、どんな風に動いていくことが、問題の解決に繋がるのかを提案していく。

“ 自分の知識の神聖さを振りかざすのではなく、こっちにきて手伝ってくれないか
俺は自由を木々のようなものだと思ってる。一晩じゃ森のように成長しない
ゲットーに赴き、自分たちの種をゆっくりと蒔こう
俺が批判してるのはそこさ。信ずるものを同じくする人々にメッセージを届け続けてどうするんだ?
「みんなを子供のように優しく接する」ことこそが、効果的だと思うんだ
成長するためには、時間と愛、そして忍耐が必要なことを理解しよう ”

Nonameのような知識のある人は、自身のような知識のない人々に怒りを向けるのではなく、時間をかけ、愛と忍耐を持ちながら、知識を広めていく事が重要なのではないかと彼は主張する。「女王」や「口調」のようなワードを用いた事で、確かに問題視されるようなラインがあるのは否定できないが、彼が今曲で伝えようとした「黒人同士で分断するのではなく、力を合わせよう」という趣旨のメッセージがここにはある。「全米規模、そして世界中で抗議運動が起こる最中に指摘することでもない」という批判も当然上がっており、彼の言わんとしていることは理解できるものの、誰もが彼を完全には肯定は出来ないだろう。

ヴァースの後半では、自身が誰もの模範になるようなヒーローではない事、自身の行いが十分ではないことを正直に明かすなど、コール自身も頭を悩ませながら、一連の問題に取り組んでいることが読み取れる。以下に和訳・解説、作品リリース後のコールのツイートを掲載するので合わせてご覧いただきたい。

[Verse]
Niggas be thinkin’ I’m deep, intelligent, fooled by my college degree
みんなは俺のことを思慮深く、知性のある男だと思ってる。「大卒」という肩書きに騙されて

My IQ is average, there’s a young lady out there, she way smarter than me
俺のIQは普通なんだよ。そこにいる若い女性の方が俺よりもよっぽど賢いのさ

I scrolled through her timeline in these wild times, and I started to read
この大変な時期に彼女の投稿をスクロールして、その内容を見始めたらさ

She mad at these crackers, she mad at these capitalists, mad at these murder police
彼女は怒ってたよ。白人に、大富豪に、殺人を犯した警察に怒ってた

She mad at my niggas, she mad at our ignorance, she wear her heart on her sleeve
俺の仲間にも、俺たちの無知に怒ってたんだ。その心の内を正直に打ち明けて

She mad at the celebrities, lowkey I be thinkin’ she talkin’ ‘bout me
彼女はセレブに怒っている。そして恐らく俺のことも言及してるんだ

Now I ain’t no dummy to think I’m above criticism
俺は「自分が批判されるなんてありえない」なんて思ってないさ

So when I see something that’s valid, I listen
だからこそ、筋の通った意見には耳を傾ける

But shit, it’s something about the queen tone that’s botherin’ me
けどさ、その「女王ばった口調」が気になっちまうんだよ

She strike me as somebody blessed enough to grow up in conscious environment
俺には彼女が「コンシャスな環境」に囲まれ育った、恵まれた人間に見えるんだ

With parents that know ‘bout the struggle for liberation and in turn they provide her with
奴隷解放についての知識がある両親がいて、彼女はそれを授けられてきた

A perspective and awareness of the system and unfairness that afflicts ‘em
システムへの考え、認識、そこにある不公平が黒人にどう影響を与えてきたか

And the clearest understandin’ of what we gotta do to get free
彼女は自由になるためには必要な、明確な知識を持ってるんだ

And the frustration that fills her words seems to come from the fact that most people don’t see
多くの人が自分が知っている事実へ辿り着いていないから、その言葉はフラストレーションに満ちている

Just ‘cause you woke and I’m not, that shit ain’t no reason to talk like you better than me
「君が気づいていて、俺はそうじゃない」からなんだろ。それを理由に「自分が優れている」なんて風に話すのは間違ってる

How you gon’ lead, when you attackin’ the very same niggas that really do need the shit that you sayin’?
そのやり方でどう人々を導くんだ?君の言葉を本当に必要としている黒人を攻撃してどうするんだよ?

Instead of conveying you holier, come help get us up to speed
自分の知識の神聖さを振りかざすのではなく、こっちにきて手伝ってくれないか

Shit, it’s a reason it took like two hundred years for our ancestors just to get freed
クソ。俺たちの先祖が「ただ自由になるため」に200年もかかってるのは、まさにこれが理由だろ

These shackles be lockin’ the mental way more than the physical
俺たちにかけられた手錠は、物理的なモノじゃない。むしろこの精神に繋がれているんだ

I look at freedom like trees, can’t grow a forest like overnight
俺は自由を木々のようなものだと思ってる。一晩じゃ森のように成長しない

Hit the ghetto and slowly start plantin’ your seeds
ゲットーに赴き、自分たちの種をゆっくりと蒔こう

Fuck is the point of you preaching your message to those that already believe what you believe?
俺が批判してるのはそこさ。信ずるものを同じくする人々にメッセージを届け続けてどうするんだ?

I’m on some “Fuck a retweet,” most people is sheep
俺は「リツイートなんてクソだ」なんて気分だけど。大半の人は臆病な羊なんだ

You got all the answers but how you gon’ reach?
君は全ての答えを持っている。けどそれをどうやって人々に届けるんだ?

If I could make one more suggestion respectfully
リスペクトを込めて、その方法を提案させてくれないか

I would say it’s more effective to treat people like children
「みんなを子供のように優しく接する」ことこそが、効果的だと思うんだ
(「女王のような口調〜」に対する、彼なりの答えですね。)

Understandin’ the time and love and patience that’s needed to grow
成長するためには、時間と愛、そして忍耐が必要なことを理解しよう

This change is inevitable but ain’t none of us seen this before
変化は避けられない。でも、前に見た景色はもうここには何一つない

Therefore we just gotta learn everything as we go
それなら、俺たちは進みながら全てを学ばないといけない

I struggle with thoughts on the daily
俺だって毎日のように頭を悩ませてる

Feel like a slave that somehow done saved enough coins to buy his way up outta slavery
まるで奴隷制から抜け出すための小銭を貯め続けているみたいだ

Thinkin’ just maybe, in my pursuit to make life so much better for me and my babies
俺の考えも、ただ俺や、子どもたちのために世の中を良くしたいだけなのかも

I done betrayed the very same people that look at me like I’m some kind of a hero
俺は、俺をまるでヒーローのような眼差しで見つめた、まさに俺と同じような人たちを裏切ってきた
(俺と同じような人 = 自分の身の回りを大事にして生きる大半の人々)

Because of the zeros that’s next to the commas
コンマの横に並ぶ0の数字(大金)のためにさ

But look here, I promise I’m not who you think
でも今のこの姿を見てくれよ、俺は今、君が思うような男(ヒーロー)じゃないと約束する

Ran into this nigga outside of the store yesterday
昨日、俺は店の外である男と出会ったんだ

He said something that had me like, “Wait”
彼は何か呟いて俺にこう言ってきた「待ってくれ」

He was like “Cole, ‘preciate what you been doin’, my nigga, that’s real”
「コール、君の活動に感謝してる。本当だよ。」ってね

But damn, why I feel faker than Snow on Tha Bluff?
けどさ、なんで俺は『Snow On The Bluff』のように自分が嘘臭く感じてしまうんだ?
(『Show On The Bluff』は2011年に公開された映画。表面的にドキュメンタリー映画のように見えるが、実際はフィクション作品であり、リアルを装うことを比喩として表現しています。コールも作品で描く自分自身、リスナーにより描かれる自分がフィクションのように思えたのかもしれません)

Well, maybe ‘cause deep down I know I ain’t doing enough
あぁ、俺は自分の行いが十分じゃないことを心の奥底で知っているからなのかもしれないな

 

 

[Bridge]
The sun is shinin’ today
The sun is shinin’ today
The sun is shinin’ today
今日、太陽は輝いているよ

 

 

[Outro]
Can you walk with me?
俺と一緒に歩んでくれるか?

I hope we’ll find the reason why we often sob, go on, cry
俺たちがよく泣き、嗚咽してしまう理由を俺は見つけたいのさ

Painful memories fuck up the vibe
痛ましい記憶は気分を台無しにする

Though I be tryin’ to let the time heal my mind
時間が心を癒してくれるかと思っていたけど

I was once a child, I’ve gotten older
俺もその昔はガキだった。だんだん歳も食ってきたけどさ

Still, I know I’m just a boy in God’s eyes
神様から見れば、俺もまだまだ、ただのガキなんだって理解してる

Fill me up with wisdom and some courage
知識と勇気で俺を満たしてくれ

Plus endurance to survive, help mine thrive
そして生き残るために耐え抜く力をくれよ。俺たちが繁栄するために力を貸してくれ

おはよう。昨日リリースした曲について、俺はあの曲で発した一言一句に責任を持つよ。

あの発言が正しいか、間違っているかは俺には言えないよ。でもただ言えるのは、あの曲が正直な気持ちってこと。誰について歌っているかの予想が起こってるみたいだね。勿論、そうしてくれ。作品に意見を言うのは俺の仕事じゃない。全ての批判を受け止める。だけど…

この場で一つ言わせてくれ。@noname の動向をみんなにフォローしてほしい。この時代のリーダーとしての彼女を愛してるし、尊敬してる。人々にとって正しいと信じる情報を、彼女は読み、書き、学んだ。きっとこれからもそうだ。俺みたいなやつがラップばっかりしてる間にさ。

俺は大して読書もしてないし、今の時代のリーダーとしての素質があるとも思わない。でも色々なことを沢山考えてるんだ。彼女やその他の人に感謝してる。だって彼/彼女たちは俺の考えに意見してくれるんだから。今の時代に重要なことだ。俺たちが今回の件で賛同することはないだろうけどさ。でもお互い優しくいなきゃな。

Credit

Writer : Shinya Yamazaki

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