Earl Swearshirt : Youtube
DECEMBER 24, 2019
2018年の終わり頃、カリフォルニア・ロサンゼルス育ちのラッパーEarl Sweatshirt(アール・スウェットシャツ)、本名Thebe Neruda Kgositsile(テーベ・ネルーダ・クゴシトシル)がスタジオ・アルバム『Some Rap Songs』と共に帰ってきた。
現在25歳のラッパーの3枚目のスタジオ・アルバムの特徴はどこまでも暗く、鬱憤とした気持ちが作品に投影されていることだ。この作品で彼は祖母・父との別れを経て感じた自身の苦悩を低いトーンで語り続けた。その後、2013年から契約していたメジャー・レーベルColumbia Recordsとの契約を解除したアールはこう語っていた。
“ 契約がフリーになることが楽しみだ、だってその方がもっとリスキーなことができるだろ。-Pitchfork “
今年11月にリリースしたEP『Feet of Clay』はまさに彼がトライしたかった「リスキーなこと」の一つだったのかもしれない。
旧約聖書「ダニエル書」に登場する「ネブカドネザル王の夢」というエピソードの一節から描かれたとされる最新作でもアールは自身のオリジナルなスタイルを貫いている。一曲一曲を非常に短い構成で作り上げ、反復的に同じテンポのビートを繰り返し続けているし、” MTOMB “のようにラップというよりもほとんど「語り」のような作品も存在する。いかに「刺激的」であるかがヒットに直結するラップ・シーンにおいてはリスクを取っていると言っても過言ではないのではないだろうか。
そんな最新EP『Feet of Clay』をリリースしたばかりのアールだったが、先日、母でありUCLAのロー・スクールにて教授を務めているCheryl I. Harrisと共に、ロサンゼルス現代美術館にて行われたイベントMOCAに登壇。先日エイサップ・ロッキーがLAで行われた「Summit LA」に登壇していたことが思い出されるが、ラッパーがこのようなアカデミックな場で登壇することは過去と比べ増えてきているようにも思える。
エイサップ・ロッキー「Summit LA 2019」に登壇。
オリジナルを貫く姿勢、現在の音楽界に欠けている重要な要素を指摘する
多くのオーディエンスの前で彼は最新プロジェクト『Feet of Clay』のテーマ、アール自身が作品を作る際に意識していることを語ってくれたので、紹介していこうと思う。
“ そのフレーズ(Feet of Clay)は母さんから教わったんだ。「脆さ」を表すワードとしてね。– Earl Sweatshirt”
“ 私が伝えたかったのは、人から尊敬されるような人や、影響力のある人っていうのは、「粘土のような足」を持っていることを覚えておかないといけないってこと。つまり私たちはみんな「弱さ」や「苦悩」を抱えているということね。– Cheryl I. Harris ”
上述のように今作のタイトル『Feet of Clay』は旧約聖書のダニエル書の2章から引用されている。作品中で常に内省的な語りを続けるアールにとって人の「脆さ」「弱さ」というのは重要なテーマになっているようだ。
彼はUCLAで教授を務める母親から多くを教わっている。ファースト・アルバムをリリースした後に2年間サモアに移り住み、特別なセラピーを受けたのも母の勧めからだ。レース・スタディー(人種研究)のライター、研究者でもある母親の影響を受け、アメリカにおけるアフリカン・アメリカン、ラップ・ミュージックの歴史などに深い興味を持つようになったという。
オーディエンスに「自身の楽曲をリスナーたちに理解して欲しいか?」と尋ねられたアールは以下のように答える。
“ ラップ・ミュージックは奴隷の音楽だ。
奴隷同士のコミュニケーションは暗号化されていた。コード(暗号)で語られるんだ。だから本当は現行のラップもその新しいバージョンなんだ。
もし俺がそれを本当に理解できたなら、みんなに教えることはできるよ。
音楽を書くことは俺にとって細心の注意を払わなければいけないことだ。
それは俺自身が持つコード(暗号)だからね。だからこそ時々、時間がかかることもあるのさ。- Earl Sweatshirt ”
アフリカからアメリカ大陸に連れてこられ、奴隷として扱われた黒人たちが奴隷主にバレないように、様々な工夫をしながら礼拝をしていたという歴史を踏まえて、ラップ・ミュージックもその系譜を継いでいると語るアール。
産業的にラップ・ミュージックがアメリカで最も消費される音楽ジャンルとなり、単にヒップホップ・ラップといっても、その中にも本当にたくさんのジャンルが存在する中、アールはアフリカン・アメリカンとしてのアイデンティティとその音楽に脈々と流れる歴史を学び、汲み取りながら表現を続けている。例えその決断によって、彼の作品が” 商業的 “に 成功することはなくとも、レーベルを離れ「リスキーな道を取る」という宣言をした彼の方向性は今後も変わることはないだろう。
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