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Roddy Ricch(ロディ・リッチ)の持つ常にシリアスでいつづける姿勢

デビュー・アルバム『Please Excuse Me for Being Antisocial』に込めた想い

DECEMBER 8 , 2019

1998年生まれ、21歳のラッパーRoddy Ricch(ロディ・リッチ)はカリフォルニア州コンプトンに生まれ、アトランタで育った、ラップ・ゲームを背負う存在になりうる期待のアーティストだ。

21歳という若さながら” Die Young “、” Better “などのヒット曲を生み出したラッパーは、同郷の亡きレジェンドNipsey Hussle(ニプシー・ハッスル)にも認められる逸材であり、ニプシーと共にリリースした” Racks in the Middle “は2020年のグラミー賞「Best Rap Song」「Best Rap Performance」に2部門ノミネート、同じく同郷出身のプロデューサーMustard(マスタード)の” Ballin “に参加し、こちらも「Best Rap / Sung Collaboration」にノミネートされるなど、その才能は疑う余地がない。

Meek Mill(ミーク・ミル)が率いるDream Chasers、Atlantic Recordsとサイン、12月6日に待望のデビュー・アルバム『Please Excuse Me for Being Antisocial』をリリースしたばかりの彼だが、若くして成功の階段を登る彼は今何を考え、どんな想いをデビュー・アルバムに込めたのだろうか。
インタビューなどを参照しながら、紹介していこうと思う。

grammy nominated in the studio shedding tears, all this money power fame but I can’t make u reappear @nipseyhussle

スタジオで涙を流しながら、グラミーのノミネートされたのを確認したよ。金も力も名声もある、でもあなたを蘇らせることはできない。@ニプシーハッスル

ロディはニプシーとの共演を果たし、グラミーにもノミネートされたシングル” Racks in the Middle “のラインを引用して、兄弟への想いを語る。

この作品のリリックはニプシーが『Victory Lap』にてグラミー賞に初めてノミネートされた際に書き下ろされた。時期は違えど彼らは同じ境遇に陥っている。

俺たちはグラミーにノミネートされた。勿論それは今まで最も素晴らしい成功の一つだけど、これまで起きてきたことは本当にクレイジーだった。LA Times

ニプシーの死は誰にとっても衝撃だった。しかし、銃撃、犯罪が溢れるストリートに生まれながら過ごしてきた彼にとって悲劇は珍しいことではない。

俺が音楽を真剣に始めようと思ったのは、州刑務所に入ってからだ。
車上荒らしをしていて思ったんだよ、ストリートにいてクソみたいなことをしていても、誇れることは何もないってさ。
だから俺はとにかくポジティブなことがしたかった。音楽が俺の才能だと思ったから、ただやってみたんだ。billboard

リリックを見てもわかるように、彼の音楽、そしてキャリアは「ゼロ」から始まっている。

言葉遊びをリル・ウェインから、ライフスタイルを曲に取り入れる方法をフューチャーから、メロディ、音楽に言葉をどう乗せるかの方法をヤング・サグから、それぞれを参考にしながら楽曲の製作を始めた彼だが、そのベースには「ストリートから抜け出す」という明確な目標があった。そして今もそのストリートを描き続けている。

When you get it straight up out the mud, you can’t imagine this shit

底辺(マッド)から抜け出して、こんな風になるなんて想像もできないだろ。- Racks in the Middle

彼は地元コンプトン出身のOGラッパーたちが描いてきたような「ゼロからリッチに」のセオリーに忠実にラップをし続けている。
「人生、仲間、手に入れてきた物や経験をずっと語り続けてきた。」と彼が語るように、彼はストリートを抜け出すために始めた「ポジティブなこと」を突き詰め、自分自身が何も持っていないとしても「やっていることは間違っていない」と自信を持ち続け、結果的に成功を収めた。
このデビュー・アルバムではそんな彼の言葉が現実になった、彼が手にした「勝利」が語られている。

「言っただろ。有言実行だ」って感じさ。Power 106

一般的に21歳の若者が大きな成功と大金を手に入れれば、浮ついた様子の一つを見せてもおかしくないだろう。しかし、彼は常に冷静でい続ける。
インタビューなど、私たちの前に現れる時はどんな時も落ち着いた様子を見せるのだ。

彼のデビュー・アルバムのタイトルは『Please Excuse Me for Being Antisocial – 社交的じゃない(アンチ・ソーシャル)が許してくれ』。実際にその冷静さ、笑顔や隙をあまり見せない様子とタイトルは関係していると彼は語る。

俺に関わったことがある人はみんな知ってるが、俺は元々そんなに笑顔を見せるタイプじゃなかったんだ。
このアルバムで俺がどんな存在で、どんなタイプの人間かをみんなに伝えた。勿論本当に仲の良い人たちの前では、笑顔も見せるしジョークも飛ばすけど、俺は常に物事にシリアスに取り組み続けてる。

「社交的じゃないが許してくれ」、そのアルバムのタイトルには、たとえどんなにリッチになろうともシリアスでい続けるという彼の決意が垣間見える。自身の本当のパーソナリティを臆すことなく、堂々と表明するその姿勢が彼の魅力だ。そこにはヒップホップというカルチャーの中で大事に守られてきた「リアル」がある。

リッチになると人は変わるのではないか?というMCからの疑問にも、彼はハッキリとこう答えている。

そもそも与えられるものを持っていなければ、人に何かを与えることはできない。でも、もし” ケーキ “を全て手に入れていれば、分け合えるだろ。俺は手にしたものを全て独り占めしたいとは思わない。
つまり、リッチになったからってハートは絶対変わらない。ってことさ。

彼がニプシー・ハッスルに認められたのは、以上のようなマインドを彼が持っているからなのかもしれない。上述のように彼は自身の成功だけでなく、ストリートのリアルを語り続ける。アルバムのラスト” War Baby “はその最たる例だ。

War BabyはストリートでPTSDを乗り越えた経験を語ってる。俺は真夜中のコンプトンを歩き続けて、6つも地区を通りこさなきゃいけなかった。
ストリートを歩き続けて、本当に死ぬか、警察に捕まるかしか考えられなかった。何度も車に包囲されて、本当に生きた心地がしなかった。コンプトンの真夜中がどれほど危険かを知っていれば、絶対に外なんて出ないから。
最後に行ったパーティでも発砲されて、めちゃくちゃだった。映画みたいでさ。ストリートを走って車に乗って逃げたけど。本当にあそこは映画の世界なんだ。Bilboard

俺たちは真昼間に外に出て
玄関で中毒者にヤクを捌く
プロメタジンを朝まで使って
(プロメタジン = 眠剤)
明日の朝、自分が目覚めないことを願う
俺たちは強盗の家に盗みに入るような奴らだった
Choppa(マシンガン)をla di da da daと歌わせる(撃ちまくる)
この戦場で生き抜くんだ、俺はWar Baby
ギャング達に食ってかからないといけなかった、普通じゃない子どもなんだ – War Baby

彼がラップ・ゲームを背負う存在になりうる理由は、楽曲を出すたびにヒットするという音楽的な才能だけが起因するわけではない。尊敬するヤング・サグから「教わったことを今度は教えていってくれ」というアドバイスを受け、彼は自分と同じような若い世代に向け、自身がゼロから成り上がったリアルな経験、自身のありのままの姿をシリアスに語り続ける。デビュー・アルバム『Please Excuse Me for Being Antisocial』は彼のそんな姿勢を声高々に表明した作品なのではないか。

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